Hさんのカナダへの旅立ち 河出書房新社 世界文学全集-美しき単行本


「今日か明日、誕生日でしたよね。おめでとうございます」

いかにもHさんらしいお祝いの言葉だ。毎年彼は私の誕生日にメールを送ってくれる。たしか私がHさんに自分の誕生日を教えたのは出会った当初の一回のみである。それゆえ今日か明日、という少し曖昧な表現をしているのであろうが、必ず当日で間違っていたことは一度もない。彼は万事において人がわざわざ覚えておかないようなことをしっかりと記憶にとどめ、相手への親しみをこめてその記憶に基づく、今回のような行動を取ることができる思いやりのある人なのだ。私は彼のそういった誠意のこもった行動を目にするたびに自分自身を反省し、戒めたものである。彼はこの春、カナダへ活動拠点を移すという。旅立つ前に会おうということになった。

私とHさんは、もう10年くらいの付き合いだろうか。Hさんが年上だが、私が先輩というやや複雑な関係性からメールの文言からもわかるように、微妙な距離感を保ってきたところがある。そもそも、Hさんは芸術家肌で、誰とでも一定の距離を保ち、自分のテリトリー内には入れさせないというような雰囲気の持ち主であった。作曲家で、多くのレクイエムを創作している。時々私にデモテープを送ってきては「いいものができたからぜひ」とか、「ここから先がどうしても合わない」というのだった。私もHさんも芸術を愛していたから、相通じるものはあったが、それゆえ親しくなりすぎるということもなかった。

餞別の品を贈りたかった私は、彼の希望であった折り畳み傘をプレゼントした。

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傘と言えば、雨。雨と言えばロンドン。イギリス王室御用達の傘ブランド フルトンだ。品質・機能性、デザインのバランスがいいスタンダードな傘といった感じだ。カナダの雨空にもきっと似合うであろう。彼も喜んでくれた。

彼からは誕生日ということでケーキと彼のバイブルであるという、単行本『オン・ザ・ロード』(ジャック・ケルアック著)のプレゼントがあった。誕生日プレゼントなんて期待していなかっただけにとても嬉しかった。

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私の所有する本の90%以上が文庫本でそのうちの80%ほどが岩波文庫である。なぜ文庫が多いのかと言えば、単純に廉価だからである。この度、ほとんど読むことのない単行本で文学作品を読んだのだが、なかなか心地よいものであった。

河出書房新社、世界文学全集第一集の一冊目がこの『オン・ザ・ロード』である。装丁も洗練されていて美しく、本棚に納めておきたいと思わせるステキなものだから、私はこの文学全集を一つずつ集めていくつもりだ。こうした機会を与えてくれたHさんには本当に感謝している。文学全集なんて売れない時代だが、それでもこうした企画を形にしてくれた河出書房新社も素晴らしいと思う。

これを機に私の読書スタイルを変えてみることにした。すなわち、自宅用の本を単行本に変えるのである。文庫本は仕事の合間やカフェなどで読むことにしよう。立派な存在感のある単行本が本棚に増えていくのを想像しているだけで胸が躍る。

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河出の『路上』

珠玉のような傑作は,文庫化されます

純文学の分野で文庫化と言うのは広く読まれる普遍性がある,と言うことが前提ですね。

岩波は古今の名作を厳選します。その厳選の指標にはイデオロギーも入ってしまうのでwたとえば三島由紀夫などははいりませんw出版社の個性が出てしまいますね

文庫で手に入らない本,単行本は,すなわち文庫化されてない本。
つまり単行本は,出版の第一段階だからふつーみそ(玉)もくそ(石)も一緒です。自費出版から隠れたケッサク。おかしなハウツー本から学術書まで
とはいえ。
クソは愛せずともマニアックに石は愛されます。

また玉というのは付加価値も,ですね。初版本,稀覯本,愛蔵本,そしてある世代にとっての『バイブル』ですね。

その世代の時代の感性が凝縮されたような象徴物。

その世代にあこがれる後追いにも「バイブル」となります

ケルアックなどはその最たるものかもしれませんねw
河出のドル箱ですねーw

わたしの世代は,まだ『路上』というタイトルでした

デルモア・シュワルツ,ギンズバーグ,・・・
思わず遠い目をしてしまいますww

玄さんへ


こんばんは。コメントありがとうございます。

文庫化された作品でなければ基本的に読む気になりませんし、自分から読むことはないですね。
まだまだ岩波文庫で読みたい、読むべきと思える作品が多いのでそちらが優先です。


岩波文庫が好きなのは、まさに三島由紀夫をいれてないところですね、象徴されている気がします。「路上」もありませんでした。
反社会的だったり、偏った思想のものは注意が必要ですね。

単行本はそういった意味なんですね、単純にハードカバーのものを単行本と呼んでいました、浅はかでした。

>クソは愛せずともマニアックに石は愛されます。
その通りですね。マニアックは石でも愛しますものね。様々な付加価値を持った単行本がある、うーん。そこまで考えたことなかったなぁ、勉強になります。

「バイブル」ゆえにドル箱となるわけですか。
「路上」私には合いません。読んでて面白くない。薄っぺらい。
基本的にアメリカの作品は好きでないんですが、アメリカ文学はなんだか過大評価されている気がします、、、
しっかりと読んでらっしゃるんですね、玄さんみたいな、そんな大人になりたいなぁ
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hajime

Author:hajime
ぜひ、高校生や大学生などの青年諸君に注意深く読んでもらいたい。むやみに多読する必要はなく、知識や思想の力があれば悩みに打ち勝つこともできるのだ。僕自身が高校時代から現在に至るまで苦悩と苦悶を繰り返しながら、懸命に人生について、「善く生きる」とはどういうことか、ということを真面目に考え、行ってきた事実をここに記している。その内容はきっと青年に役立つであろうと思わないではいられない。

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