10アクセスは多い?少ない? ”今の時代が醸す香り”とは


シェイクスピアは何よりもまず詩人であったんだ。つまり、彼は世にあまた存在する文人のなかでも後世にその名を刻むことのできる最良の機会を持っている人物なんだよ。他の文人たちは頭でものを書くが、シェイクスピアは心でものを書くので、人情の機微を知る人であれば、彼のどの作品を読んでも理解できるというわけだ。しかも、シェイクスピアは悠久不変の自然を忠実に描写することに長けていたのさ。散文作家の場合だが、彼らには多作な人が多くて始末が悪い。何しろ、彼らの本には凡庸なことが満ち溢れているし、その引き伸ばされた思想には辟易させられるものが多い。それにひきかえ、真の詩人の場合は、その作品のすべてが明瞭簡潔にまとめ上げられて感動を伴い華麗に彩られている。詩人はとびきり精錬された言葉を選んで、きわめて崇高な思想を語る。詩人は自然と芸術のなかに潜む最も秀逸と思われるあらゆる事象を通して、その思想をあらわにする。詩人は間近で展開する人の営みの風景を活写することで、その思想を豊かにするのだ。さらに言えば、詩人の作品のなかには時代の精神、こんな表現を使わせていただけるならば、その詩人の生きた時代が醸す香りを読み取ることができるのだよ。詩人の珠玉の作品群は小さな器のなかに言葉の宝を収納する小箱に似ていると思う。こうしてイギリス文学における貴重な宝を後世に残すべく、伝わりやすいと思われる形態に変えられたのだよ。もっとも、その宝石の嵌め込み台は古びて廃れることがあるので、時折チョーサーの作品のように修正を施す必要があるが。といっても、そうした珠玉の作品の真価は容易に認められて不変の生命力を持っているものだ。試みに、長い文学史を振り返ってみるがよい。なんとも禁欲的な話やアカデミックで刺激的な論争に満ちている退屈な谷間があったり、あるいは神学的な思索に耽る沼、さらには形而上学的な荒野が広がっていたりするものだ。詩的な叡智に輝く純粋な灯をその時代から次の時代へと伝えるべく、遠く離れた山頂から上がる狼煙のように、高く突き抜ける蒼穹に燦々と輝く詩人は、ここかしこに散見するにすぎないのだよ。   『スケッチ・ブック』 アーヴィング作より


先月、9月はこのブログにとってひとつの節目となった。というのは、私は何かに取り組むとき、大きな目標とその目標に向かうための眼の前に設定可能な、手の届きそうな目標の二つを設定することにしていて、ブログを書く上でもこの方針は変わらないのだが、その、言うなれば小さな目標が、一か月間10以上のユニークアクセスを継続するというもので、先月ようやく達成することができたのだ。ここ数か月は条件を満たさなかった日が3~5日というところを推移していて、継続することの難しさを改めて痛感することにもなった。この10アクセスというのは日本の人口、ネットユーザーの数を考えればあまりに小さい数であり、私自身も無力感を覚えないではいられなかった。目標を達成することに意味は見いだせても、数字としての価値はゼロに等しかった。私はそんな無力感と失望をネットに精通している、もっぱら普段はテレビにつなげたYouTubeの鑑賞と自ら製作、運営しているサイトの更新に勤しむSに嘆くと、彼から案外な言葉が返ってきた。

「10~20アクセスくらいあるんだ。へぇ、すごいね」

「すごいことあるかよ。何千、何万アクセスとかあればすごいけどね。話にならんよ」と私は肩を落とした。

空気はすでに夏の湿気を脱ぎ捨てて、どこかの草むらから羽虫の鳴き声がもれ出ていた。私たちはベランダに出ていた。

「一体、ネット内にどんだけサイトがあふれてると思ってるんだ。それこそ天文学的な数字だ。埋もれてしまうのは当然だよ。実際ほとんどのサイトは埋もれてしまって、そのまま化石にもならずに宇宙の塵のようにどうしようもないゴミ同然だ。お前のブログを見たけど、仮にあの内容で多くの読者を得ようと考えているのなら、狂気だね。客観的に考えてみろ、あんな文字で埋め尽くされた見ず知らずの人間のブログを誰が読むんだ?しかもその内容は文学や思想ときてる。旅に関してはまだ一般人の関心を引きそうなものだけど、なんせ言葉選びがひどいね。十人中九人が読むのを途中でやめる、楽じゃない文章だ。俺が言いたいことわかるか?」

「まあ、そうだな、わかるよ。それでどっちなんだ?」

「正直、取り上げてるテーマ、その体裁を考えれば、それだけ平均してアクセスがあるっていうのは一般的に評価していいと思う。実際、それを裏付ける充実したコンテンツもある。俺はあんなもの読みたくないから、読む人間がいるってだけで驚いてるよ。俺なんかよりよっぽど立派だよ。その調子で続けていけばもっと成長させれると思うな。俺の方が刺激をもらったわ。なんか自分のやってることがばかばかしくなってきた。やはり生産者にならなきゃな、そして自分のスタイルで働きかけていかないと面白くない」

彼の言葉は、いや彼の言葉だからこそ、とても説得力があった。少し自己評価してもいいのではないか?それはモチベーションとなりうる。私は倦まず弛まず次なる目標を設定することにした。一方で、アーヴィングの言葉は真の詩人の姿とはおよそかけはなれている現実を私に突きつけた。自然描写はお粗末で人情には疎い。いまの私にできることといえば、個人を告白していくことで、これもやがて限界がやってくる。”生きた時代が醸す香り”、もはやこれ以外に私たちが文学を書く意味はなさそうであり―すでに多くの作品があらゆることを書きつくした―、これによって芸術は永遠の命を手に入れることになる。だからといって、無用な貧弱な役に立たない香りであるならばすぐに息絶えてしまうであろう。”今の時代が醸す香り”をいかに表現していくのか、それをまじめに考えていく必要がありそうだ。

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No title

>やはり生産者にならなきゃな、
お~。
>そして自分のスタイルで働きかけていかないと面白くない」
お~。
文章の生産者ですからね、表現者だなぁ。
自分のスタイルは、独自性でいいかな。
意図してもしなくても、結局は、どうしようもなく出来てしまうスタイル。
文体とかも。

生産は、内側で作って、
外側に問う、ってことになる。
外にあるものを仕入れたとしても、
少なくとも加工しなきゃです。
横流しは生産者ではないな。
体裁のいいラッピングで飾ってもねぇ。
そんなことを考えながらブログを書いている人が、
どれだけいるのかは知らないけれど。

No title

「生産者にならなきゃなー」「自分のスタイルで・・・」というのは、私もつよく共感します。

「10(ユニーク)アクセス」の捉え方も、友人の方が言われたことは、たしかにそうだ、と思えます。私のブログにもあてはまることも多いと思います。

「10」というのは、じつはそれなりの数字なのだと。

とにかく、貴ブログが結構な頻度で更新を続けているのはたいしたものだし、たしかに独特なコンテンツとして積みあがっているわけです。

別の記事で書いておられましたが、まとまった作品を仕上げて何かの賞に応募するのは良いことなのでは、と思いました。

私のブログは1日のユニークアクセス数は30~40ほどです。ほんとにささやかです。しかも、この1~2年は更新頻度が下がったせいか、伸びていません。それでも、一定の読んでくださる人はいる、という手ごたえはあるのです。

青梗菜さんへ

返事遅くなって申し訳ありません。こんばんは。
コメントありがとうございます!

意図してもしなくても、結局は、どうしようもなく出来てしまうスタイル。
たしかに自然に出来てしまうものではありますが、ピアニストが求める特徴的な?顔を持った音色のように、文体も何か魅力的なものでなければならない、そんな風に思い、文体の研究と工夫をしていきたいです。

横流しは生産者ではないな。
そうです!商売のほとんどがこのピンハネを含む横流しによって成り立っているのも許しがたいですが。世の中の仕組みでしょうか……

ブログって、しっかり書いてあると結構面白いですよね、暇つぶしに最適じゃないかなぁ。

そういちさんへ

こんばんは。お久しぶりです。
返事遅くなり申し訳ありません。

独特なコンテンツとして積みあがっていると第三者から認識されているのは喜んでいいことだと率直に思います。私はそこに意味さえ見出します。
作品の在り方も同時に考えているので、徐々に形にしていきたいと思っています。
記事を読んでくださり、また共感もしていただき、ありがとうございます。そういちさんのような積極的に活動されている方の言葉でとてもうれしいです。

そういちさんで30~40ユニークアクセスなら、私の数は本当に喜んでいいものだと確信しました。なぜなら、『団地の書斎から』の内容は実に役立つ、実用的な記事の集合体で図や生き生きした様子が伝わってくる写真が豊富で、単純に読者が楽しめる内容になっていると感じるからです。それに読みやすいです、すごく。もっとアクセスがあってもいいのにと思います。ネットの難しさ、ブログの難しさがありますよね。コツコツ続けていくことでしょうか。

『団地の書斎から』は意識しているブログのひとつですから今後ともより良いブログを楽しみにしています。
プロフィール

hajime

Author:hajime
ぜひ、高校生や大学生などの青年諸君に注意深く読んでもらいたい。むやみに多読する必要はなく、知識や思想の力があれば悩みに打ち勝つこともできるのだ。僕自身が高校時代から現在に至るまで苦悩と苦悶を繰り返しながら、懸命に人生について、「善く生きる」とはどういうことか、ということを真面目に考え、行ってきた事実をここに記している。その内容はきっと青年に役立つであろうと思わないではいられない。

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