作者自身を語る 放浪癖の持ち主


書物をさらに読んで思考力が高まると、この茫漠とした得体の知れない習癖の正体が前よりも分かるようになった。そうなると、余計にそのような傾向は確固たるものとなった。私はこの国のいろんな場所を訪れた。私が単に美しい風景に接することが好きだというだけであったならば、わざわざ外国まで出かけていって、その願いを叶えようとは思わなかったろう。というのも、私の故国アメリカほど豊かな自然の魅力に満ちた大地は他にはないからである。(中略)

とはいうものの、やはりヨーロッパ諸国は物語や詩から想起される魅力的な情景を満喫できる所である。たとえば、芸術の傑作、洗練され高い教養を極めた社会の優美さ、あるいは古来より伝わる地方の珍しい民俗風習などは、その典型であろう。私の故国の未来は前途洋々として若さと希望に溢れているが、ヨーロッパはすでに成熟期に達し、長きにわたって蓄積された財宝に満ち溢れているのだ。まさに、その廃墟は過ぎ来し方の長い歴史を物語っており、崩れ落ちてゆく石の一つ一つが、それぞれの年代記といっても差し支えない。私は歴史に彩られた名所旧跡を訪ねて、その辺りを逍遥し、いわば先人たちの足跡を辿り、寂れた古城に憩い、崩れかかった尖塔を眺めながら瞑想に耽りたかった。つまり、日常凡俗の現実の世界から逃れて、幻想の過去の世界にこの身を浸したいと思ったのである。

これとはべつに、私には世界の偉人たちと出会ってみたいという強い欲求があった。   アーヴィング著 『スケッチ・ブック』より


いつの時代もやはりこうした人間はいるものなのだろうか。世界に一定数存在すると思われる世界を深く知りたいという冒険家、旅人、夢想家、放浪者…彼らの中で殊に知性と感性に長けた者たちが書やメッセージ、絵画や音楽を後世に貴重な遺産として残してきたのだろう。僕もまた、このような放浪者の一人であり、この道の巨匠ともいうべき先人たちの残した作品に触れないではいられない。そして僕自身も読書や旅、瞑想を通してこの世界の一員であるという強烈な実感を得たいのである。旅への熱情は、読書によってもたらされたのだった。同時に、読書は世界の偉人たちに接することのできる貴重な手段(特に故人)であり、読書がその偉人たちの精神に近づくことを可能にし、旅は彼らの痕跡をたどり、その姿を浮かび上がらせることを可能にする。『レ・ミゼラブル』、『魔の山』、『イタリア紀行』、『アンナ・カレーニナ』、『高慢と偏見』、『ドン・キホーテ』、『緋文字』…、たとえこれらを読んでいたとしても、その大地さえ踏みしめたことがなければなんともやりきれない!僕が達成できたのは、まだ国内のいろんなところを一般以上には訪れ、一般以上に文学史上の傑作を味わい、夏目漱石に限っては満足のいくくらいにそのゆかりの地や小説の舞台を巡ったというところまでだ。文学だけでなく、これに史実が加わるのだから世界の奥深さ、壮大さは筆舌に尽くしがたい。僕はずっと、生きているあいだこの世界の現実と過去の歴史の間で揺蕩っていたい。しかし、今の僕の境遇はそれを許さない。Tは僕に、「もっと低俗になるべきだ。お前が低俗だと思っているものを一度受け入れてみるんだ。それがきっとお前を救ってくれるだろう。今のお前は何かから逃げている。それだけではない、既に多くのものを失い、刻一刻と損失を重ねているんだ。そこに気づいた方がいい」と忠告した。世界を知るためには、迎合やむなしというのか。たしかに蟄居と夢想で満足できる僕ではないのだ。

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No title

う~ん、
hajimeさんには、hajimeさんの生い立ちや、恋愛や、
読んだ小説や、マンガや、
テレビや、ラジオや、音楽や、映画や、
訪れた場所や、出会った人たちや、
幾重にも積み重なった経験があり、
今の境遇の中で最適化して、
最大限のというか、最小限のというか、
譲歩と妥協を経ながら、さらに積み重ねて行く、
そのhajimeさんの在り方に、
固執するのは当然です。
それができないことは、自由の制限です。

しかし、その自由に拘ることは、
他の誰かには得られているはずの、別の自由を遠ざける、
それも、自由の制限です。

結論、ご自由に!w

百聞は一見にしかず

Guten Morgen!

百読は一聞、これまたしかり、と8年前に網膜剥離を患ってから書物に眼を通すことが少なくなり、聞くこと(ラジオ、人の話、会話)が多くなったようです。

しかし空想と好奇心を満たしてくれ、心地よい時間を作れるのはやはり書物の世界だったような気がします。

作家の丸山健二さんが旅をすること(放浪癖)を戒めていたのがとても新鮮だったのがおもいだされました。

コメント頂いたからコメントをしに来たのではないのよっ、 笑


プロフィール

hajime

Author:hajime
ぜひ、高校生や大学生などの青年諸君に注意深く読んでもらいたい。むやみに多読する必要はなく、知識や思想の力があれば悩みに打ち勝つこともできるのだ。僕自身が高校時代から現在に至るまで苦悩と苦悶を繰り返しながら、懸命に人生について、「善く生きる」とはどういうことか、ということを真面目に考え、行ってきた事実をここに記している。その内容はきっと青年に役立つであろうと思わないではいられない。

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