人生に与えられた制限の中で汲みうるものを汲みつくすこと 僕の天職


ここで突然鋭い炎のように一つの悟りが私を焼いた。―各人にそれぞれ一つの役目が存在するが、だれにとっても、自分で選んだり書き改めたり任意に管理してよいような役目は存在しない、ということを悟ったのだった。新しい神々を欲するのは誤りだった。世界になんらかあるものを与えようと欲するのは完全に誤りだった。目ざめた人間にとっては、自分自身をさがし、自己の腹を固め、どこに達しようと意に介せず、自己の道をさぐって進む、という一事以外にぜんぜんなんらの義務も存しなかった。―そのことは私の心を深くゆり動かした。それが私にとってこの体験の結実だった。しばしば私は未来の幻想をもてあそび、詩人としてか予言者としてか画家としてか、あるいはなんらかのものとして、自分に定められているかもしれない役割を夢想したことがあったが、それらすべてはむなしかった。私は、詩作するために、説教するために、絵をかくために、存在しているのではなかった。私もほかの人もそのために存在してはいなかった。それらのことはすべて付随的に生ずるにすぎなかった。各人にとってのほんとの天職は、、自分自身に達するというただ一事あるのみだった。詩人として、あるいは気ちがいとして終ろうと、予言者として、あるいは犯罪者として終ろうと―それは肝要事ではなかった。実際それは結局どうでもいいことだった。肝要なのは、任意な運命ではなくて、自己の運命を見いだし、それを完全にくじけずに生きぬくことだった。ほかのことはすべて中途半端であり、逃げる試みであり、大衆の理想への退却であり、順応であり、自己の内心に対する不安であった。新しい姿がおそろしくかつ神聖に私の前に浮かんで来た。それは百度も予感され、おそらくもういくども口に出されたものであろうが、体験されたのはいまが初めてだった。私は自然から投げ出されたものだった。不確実なものへ向かって、おそらくは新しいものへ向かって、おそらくは無へ向かって投げ出されたものだった。この一投を心の底から存分に働かせ、その意志を自己の内に感じ、それをまったく自分のものにするということ、それだけが私の天職だった。それだけが!   『デミアン』ヘルマン・ヘッセ著より


夢を見て、努力の先にそれを掴むこと、それが人生の目的であり甲斐であると信じていた。人生は自由であり、可能性であると、それは前向きであるし、建設的で進歩的でさえある。しかし事実ではない。理性、主に想像力は人間が達しうる活動範囲の最大値を担うのだが、肉体の制限を受けなければならない。もし仮に肉体的欠損が我が身に起こればその瞬間に人生は大きく変わる。当たり前が当たり前でなくなったとき、人間は初めて、自分の運命というものを意識するのかもしれない。

人にできて、私にできない―これは大きな絶望となる。社会生活を営む中での足かせとなる。厳然と存する、制限。一生片時もはなれることのない制限は僕を苦しめた。そこに意味を見いだすために、神を創造してみても、その事実から目をそむけ、ごまかし、運命の決定の先延ばしになるに過ぎなかった。また自分を選ばれしものだと考えようにも、世界になんらかあるものを与えようにも、自分は世界から大目に見てもらっている弱い存在であるという意識が、そうした意気を挫いた。あきらめるのとは違うが、芸術的作家として生きることは期待できないし、経済的行動派としても期待できないであろうことは明白であった。家族を十分に養うということや、近親のものに満足を与えることもまた期待できなかった。けれどもそれらは付随的に起りえないというものでもなかった。ただ、期待さえあれば人は不安を抱かないものであるから、期待させれないことが歯がゆかった。生物であり、人間である能力の欠如は痛烈に弱さという自意識に強く結びついていた。けれどもまた真っ向からその事実を把握し対峙している自分をも見いだしたのだった。自然は僕を生み、僕は存在している。不確実なものへ向ってか、新しいものへ向ってか、無へ向かってか僕は投げ出されたのである。その意志を自己の内に感じながら、それを自分のものにし、人生に与えられた制限の中で汲みうるだけのものを汲みつくすこと、それが僕の天職なのだ、それだけが!

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hajime

Author:hajime
ぜひ、高校生や大学生などの青年諸君に注意深く読んでもらいたい。むやみに多読する必要はなく、知識や思想の力があれば悩みに打ち勝つこともできるのだ。僕自身が高校時代から現在に至るまで苦悩と苦悶を繰り返しながら、懸命に人生について、「善く生きる」とはどういうことか、ということを真面目に考え、行ってきた事実をここに記している。その内容はきっと青年に役立つであろうと思わないではいられない。

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