役人のいない国家という理想


私が森へ行ったのは、思慮深く生き、人生の本質的な事実のみに直面し、人生が教えてくれるものを自分が学び取れるかどうか確かめてみたかったからであり、死ぬときになって、自分が生きてはいなかったことを発見するようなはめにおちいりたくなかったからである。人生とはいえないような人生は生きたくなかった。生きるということはそんなにもたいせつなのだから。また、よほどのことがないかぎり、あきらめるのもいやだった。私は深く生きて、人生の精髄をことごとく吸いつくし、人生といえないものはすべて壊滅させるほどたくましく、スパルタ人のように生き、幅広く、しかも根元まで草を刈り取って、生活を隅まで追いこみ、最低の限界まできりつめてみて、もし人生がつまらないものであることがわかったなら、かまうことはない、その真のつまらなさをそっくり手に入れて、世間に公表してやろうと考えたのである。また、もし人生が厳粛なものであるとしたら、身をもってそれを体験し、次の旅行記にありのままを書き記すつもりだった。それというのも、たいていのひとは人生が悪魔のものか神のものか不思議なほど確信がもてないらしく、「神をほめ称え、永遠に受け入れる」ことが地上の人間の主目的だと、いくぶん性急に結論をくだしてきたように思われてならないからである。   『森の生活』より


もし真剣に読書をしようという人がいたら、『森の生活』は絶対に外してはならない。真剣に読書をするとは、真剣に人生を生きようと志を立てることだからだ。そして人生に真剣に向き合って生きた人こそソローなのだ。このソローが書いた『森の生活』は人生を真剣に生きる疑似体験を与えてくれる。人生は一度きりであり、ほとんどの人は人生を何にも賭すことができずに死んでゆく。それはただ、一度しかない人生の意味を誤解しているからなのだ。死ぬときになって、自分が生きてはいなかったことを発見できるほど鋭敏で冷静な頭脳を持っている人は数少なく、多くは幸福にもあまりに短い栄光の日々を思い浮かべながら自己肯定の幸せの中で世を去るにちがいない。いい人生だったと、後悔のひとつもせず、未来を憂うこともなく死んでゆくめでたい人がほとんどだろう。逆に、人生をただ絶望の中に沈むことで、真剣に生きることから目をそむける人も多い。受け売りや鵜呑みを人は好む。思考停止することで、厄介なストレスを紛らわそうというのだ。なんでもかでも神のせいか、社会のせいだ。人生の真実を解き明かすために戦っている者はどれだけいることだろうか。まず、「生きるか」、「死ぬか」の選択ぐらいしてみたらどうだ。「生きているから生きる」、「みんながやっているからやる」、「こういうものだから、こういうものなのだろう」、そんなめくらめっぽうはやめたがいい。人間の主目的が、子孫繁栄だの、金儲けだの、わかったように、えらそうに言っている社会で生きる人たち、それを受け売りだというのだ。自然界の成り立ちと生れた社会構造が資本主義だったというだけで、さもそれが目的だというように性急に結論するのはいかがなものか。

では、僕にとって「森の生活」とはどういう生活であるべきなのであろうか。ソローは森へ行った。それを必ずしもまねる必要はない。「思慮深く生き、人生の本質的な事実のみに直面し、人生が教えてくれるものを自分が学び取れるかどうか確かめる」ためにどういった生活を、日々を過ごしていくべきだろうかということなのだ。そういった意味で僕はまず、一般的な労働というものに着手する必要を感じている。約八時間、月二十日間を社会のルールに従って労働にあてることは何を意味し、何を感じさせてくれるだろうか。実際のところ、このルールは形式的に定められたものであって、労働条件ではない。本来は人それぞれにあった労働条件があるべきであり、一様にこのように定められては、仕事や労働者がそれぞれであるのに、時間だけが(時間というもの自体も形式的に定められた尺度に過ぎない)最低限のラインとしてきっちりと決められているのは不自然だ。批判や抵抗するのではなく、労働者の一人ひとりが疑問と不自然さを感じていなければならない。「集団的自衛権」の行使が容認されたことは批判しようが抵抗しようが、今の社会ではどうにもならない。だが、疑問と不自然さ、アクションの意味での批判と抵抗をしなければ、そもそも私たちの存在意義がなくなり、国家が意味をもたなくなるではないか。国家が、役人のために存在するという国になりつつあるではないか?日本は?国民があって、国家がある。国民と国家の間に役人がある。役人なんて誰もやりたくない仕事だ。金がもらえて、公務という大義のもと自由にいろいろできるからみんなやるのだ。国民性がもっと高くなり、役人が必要ない国家がいつか実現するであろうか……。若者が政治に興味がないというが、ある意味でこれはいい傾向ではなかろうかという見方もできなくはない。ただ、現実に役人がいて、政治が存在しているのだから当然無視することはできない。

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hajime

Author:hajime
ぜひ、高校生や大学生などの青年諸君に注意深く読んでもらいたい。むやみに多読する必要はなく、知識や思想の力があれば悩みに打ち勝つこともできるのだ。僕自身が高校時代から現在に至るまで苦悩と苦悶を繰り返しながら、懸命に人生について、「善く生きる」とはどういうことか、ということを真面目に考え、行ってきた事実をここに記している。その内容はきっと青年に役立つであろうと思わないではいられない。

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