文明は我らをして孤立せしむるものだ

平岡はとうとう自分と離れてしまった。逢うたんびに、遠くにいて応対する様な気がする。実を云うと、平岡ばかりではない。誰に逢ってもそんな気がする。現代の社会は孤立した人間の集合体に過ぎなかった。大地は自然に続いているけれども、その上に家を建てたら、忽ち切れ切れになってしまった。家の中にいる人間もまた切れ切れになってしまった。文明は我等をして孤立せしむるものだと、代助は解釈した。   『それから』より


かつて共に学んだ旧友はとうとう自分と離れてしまった。久しぶりに会ったのだけれど、お互いに背を向けあって話しているように刺激し合うところも響き合うところもなかった。彼は人生を仕事と金だと解釈してしまった。生きるために金が必要で、金を得るために仕事をするというシンプルな二つの概念のみで日々を構成していた。その仕事は努力を要しない程度に能力を活かせる仕事であり、彼はもともと潜在能力が高かった。要するに、その能力に甘んじて人がうらやむような仕事についているわけだ。人間相手の仕事なのだが、彼らはお客であるのだが、彼の眼には面倒をかけるモノくらいにしか映らず、その扱い方は聞いていて、うんざりした。彼はすっかり変わってしまっていた。心を失わなければ社会でやっていけないのかしらん。僕は漠然たる不安を覚えた。実際、彼ばかりでない。家族に対しても組織を成す上で最も重要だと思われる絆が失われてしまっている気がする。現代の社会は孤立した人間の集合体であることは感じていたが、まさか家族という最小単位の社会まで崩壊してしまうとは考えていなかった。部屋はドアによって完全に仕切られ、一人ひとりのテリトリーが形成され、それと同時にお互いに侵しがたい、いやむしろ相手を許容しないバリアのようなものをつくってしまう結果となった。一つ屋根の下に家族が暮らしているのだけれど、その中で暮らす一人ひとりは切れ切れになって心通わず。ただ表面的なあいさつや自分の権利を主張をするときにコミュニケーションを図るだけで、用のないときは部屋にこもってそれぞれが好き勝手な時間を過ごしている。いい家族になろうとか、住み良い家庭、住居をつくっていこうという気はさらさらない。お互いのこころがどんどん離れていくばかりだ。文明は我らをして孤立せしむるものだ。そして個人個人にしてしまったあとは、個人の心と肉体をバラバラにして病んだり、不健全な人間を多く生み出すことになるのかしらん。ただただ将来が不安である。

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hajime

Author:hajime
ぜひ、高校生や大学生などの青年諸君に注意深く読んでもらいたい。むやみに多読する必要はなく、知識や思想の力があれば悩みに打ち勝つこともできるのだ。僕自身が高校時代から現在に至るまで苦悩と苦悶を繰り返しながら、懸命に人生について、「善く生きる」とはどういうことか、ということを真面目に考え、行ってきた事実をここに記している。その内容はきっと青年に役立つであろうと思わないではいられない。

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