ライフスタイルの多様化と可能性 少しでも身軽にしてよりよい環境へ


哲学者でもないかぎり、自分の家具が荷車に山と積まれ、空き箱同然の無価値な姿を天の光とひとの目にさらしながら田舎へ運ばれていくところを見たならば、恥ずかしくてたまらなくなるのではあるまいか?それがスポールディング氏の家具なのだ。そういった積み荷をつぶさに調べてみても、それがいわゆる金持ちのものなのか貧乏人のものなのか、私にはまったく見分けがつかなかった。持ち主はいつだって貧しげにみえた。実際、こういうものを手に入れれば入れるほど、ひとはかえって貧しくなる。どの積み荷にも一ダースの仮小屋の中身が詰まっているようにみえる。だから一軒の仮小屋が貧しければ、積み荷は十二倍も貧しいことになるわけだ。家具、つまりわれわれの抜け殻を脱ぎ捨てるためでないとしたら、そもそもなんのために移転するのか?やがてこの世から新しい家具のあるあの世へと移り、この世は燃えるにまかせるためではないのか?家具をもつのは、ありったけの罠をベルトにくくりつけるようなものだ。この厄介物をひきずらなくては、われわれが生きてゆくことになっている、このでこぼこだらけの世間を渡ってはいかれないことになってしまう。罠にしっぽを残して逃げた、あのキツネはむしろ幸運だった。マスクラットなどは、自由になるためなら三本めの足を噛み切ってでも逃げるだろう。   『森の生活』より


僕は慎重に自室の家具と一々調べてみた。勉強机、デスクトップパソコン、本棚が二つ、レコードプレイヤーとスピーカー、テレビとDVDプレイヤー、空調設備(ストーブとクーラー)。これらはまず現状で必要最低限と僕が判断しているところのもので、さまでに自分自身の足かせとなりそうな厄介物ではないように思えた。これらでさえも、ソローのいう森の生活、理想の暮らしの中では不必要といえそうなものだ。これらを少し時間をかけて吟味する必要がある。しかも考えてみれば、アメリカ的な合理性に重きを置いた家具配置になっているように思う。絵画の一つ壁には掛かっていないし、花や植物が呼吸しているわけでもない。言い方によっては殺風景で皮相的なものに囲まれている。色味がなく、自然とは離れた空間だ。けれども、住んでいるところが住宅地で窓外を眺めても緑の山々など見えず、流れる川のせせらぎは聞こえない。飛び交う蝶々にお目にかかったこともない。それらをたとえ求めたとしても、今住んでいる家はどうする?引っ越してその先での仕事は?その前に今の仕事は?自由のようでまったく不自由だ。

贅沢とかみすぼらしさ、快適さや清潔さというものは単に新しかったり、飾り立てたりされていることによって実現できるものではない。なによりもまず、生活者の暮らしぶり、純粋な意味での立ち居振る舞いが優美で落ち着いたしなやかなものでなければ、結局のところどのようなものであれしっくりと本当の意味での似あう、扱うということにはならないだろうし、暮らしを向上することはできない。続いて、手入れ、片付け、整頓ということができていなければ、やはりやはり快適な空間というものを実現できないに違いない。どれだけ古い建物であっても、あるいは屋外の簡素な造りの住居であっても丁寧な手入れや使用がされていれば、おのずと美観を保ち、快適さも備わっている。ひいてはそこの住人の人柄と人格というものまで物語るということにもなる。

家具のみならず、「衣食住」と言われるように生活におけるこれらを形成する一つひとつのものを取捨選択しながら、よりよいものへの交換であったり、除去ということを徹底したいと思う。今の時代は特に、本はタブレット端末一つに収まり、音楽も携帯端末のデータとして持ち歩ける。ライフスタイルが多様化し、さまざまな選択とそれに伴う可能性が潜在している。よりよい環境、生活というものを本来人間は求める生き物であるから、その活動の足を引っ張ってしまうような状況に自分を置くことは避けたほうがよいだろう。少しでも身軽になっておくべきなのだ。

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アラ五の『森の生活』

いいですねえ~~
リヤカー(って知らないかなw?)ひとつに,つめるだけの荷物,そんな暮らしにあこがれつつも余計なものがワンサカある我が家。心がけひとつですっきり「優美で落ち着いたしなやかなもの」になるんですよねえ

いいですね,いいですね。身軽。いいです。とっても。
『森の生活』は若いときに読んで,アラサーのとき読んで,こうしてここで,と。
心がよろこびます( ←あなたのいいまわしでしたね)
また読みたくなります。

ご訪問ありがとうございます。

恥ずかしながら、実際のリヤカーを見たことがないかもしれません…(ただ映画やテレビなどでどういったものかは見たことがありますが)

玄少子さんはやはり読んでおられましたか、しかもほどよい時を置いて。読書はそうあるべきですよね。そのときそのときに違った味わいと意味を持ちますね。時代も少し変わりますし、価値観もまた変わりますしね。

玄少子さんの読書遍歴とお勧めの本などはとても参考になりそうです。またそうしたお話もうかがえたら嬉しいです。

No title

こんにちは~♪

『森の生活』かぁ、いいなあ。
英文科に所属しながら、英語がからきし駄目だったわたくし。
課題も原文で読まず、必死に訳本を探してそれでレポート書いてたりしてたから、英語力が上がるわけない!(笑)
そんな私が意を決して、初めて丸ごと原文で読んだのが、この『森の生活』でした~。
もう40年余も昔の話です。
こういう隠遁生活に憧れましたね~~~

たぶん私の隠遁生活者への憧れは、小さい頃別れ住むことになってしまった父が(母と兄と姉と私は町に残り、父は故郷の高原の村に帰った)、竹細工仕事で細々生きる山の仙人みたいな人だったからかもしれない…
渓流釣りのこと、山の動植物のこと…山のことなら何でも知っていました。
高原の小さな離れ家で、たった一人で、生涯女っ気もなく、何やら清冽に生きて、たった一人で死んでいきました…

隠遁文学は、その性質上殆ど物語らしきものがないから、ある者には退屈で仕方がないものかもしれないけれど、私は好きだなあ。
西洋にはこうした隠遁文学、結構多いですね。
中国には無論、きら星のごとく隠遁生活者がいるでしょうが、そこのお講義は玄少子さんにお願いしよう。^^

わたしの中での好きな2大隠遁文学作品は、この『森の生活』ともう一作、ジョージ・ギッシング『ヘンリ・ライクロフトの私記』です。
ソローの森の生活がアメリカ大陸の松など針葉樹の清新な香りに満ちているとすれば、ギッシングのそれは、南イングランド、デヴォンの、やさしい広葉樹の林の落ち葉の香りに満ちています…。^^

長いこと生きていくための暮らしに疲れたヘンリ・ライクロフトが、ふとしたことから晩年を働かずに生きていけるだけの遺産を手にすることになる…美しい林の道を散歩したりしながら思索にふける夢のような生活が出来るようになるわけですが……

これはもうわたしの大好きな隠遁文学で、岩波文庫のその本はわたしの貧弱な書棚の宝物なんですが…
そういう割には一度も最後まで読みとおしたことがない。20年おきくらいに今度こそ、と思って読み返してみるんですが、3分の2ほど読んだところでいつも退屈で爆睡してしまう!(爆)

日本に純粋な隠遁文学ってあるかなぁ。『徒然草』『方丈記』…?
私の求めるものと違うな…
そうそう。隠遁文学とは言えないかもしれないけれど、島崎藤村『千曲川のスケッチ』は、やはり私の愛する本だなあ。
ということは、私は隠遁文学というよりも、『写生文』が好きなのかも、です。

え~っと、まだ何かhajimeさんに書こうと思っていたことがあったんだけれど、脱線しているうちに忘れちった!(笑)
思い出したら、またお邪魔します。^^




彼岸花さんへ ご訪問ありがとうございます。

コメントありがとうございます。こんばんは。

てっきり真面目な学生でいらっしゃったと思っていましたので、そうでしたかある意味学生らしいですよね!
僕も理系だったのですが、たいていは図書館やピアノ室にいたりして…講義中でも机の上には文庫本を載せていました。

原文で読まれたなんて、いやー、うらやましいです!やはり邦訳されたものとは感じ方が違うでしょうね。僕はどの言語にも明るくなく、英語でさえまともに原文を読むことができないので残念であります。優れた翻訳で満足している現状です。

山の仙人のような方というお父様、素敵な生き方をされていたんですね。自由と自然を愛する、そうした気持ちがなければ「森の生活」にはひかれないでしょうから、親の姿というのは多分に影響を与えてくれますね。いずれはそんなお父様のような平穏な日々を過ごしたいなぁなんて思いました。

彼岸花さんがあげてくださった、ジョージ・ギッシング『ヘンリ・ライクロフトの私記』、僕も気になっている著作です!何度も手に取り、「いやいや、もう少し実践的なものを(牧歌的な、脱世間的なものではなく)」なんて料簡が狭い考えに陥って棚に戻してしまっていたので、今度読んでみます。『森の生活』とはまた違った魅力があるんですね!楽しみです。

『千曲川のスケッチ』は、現に僕自身が千曲川に魅力を感じている一人でありまして、これも気になっているものです!いやはや、読みたい本がたくさんあります。

ある箇所が眠たくなって遅々として進まない物語、ありますね。僕は『レ・ミゼラブル』の歴史描写のところはどうしても退屈してしまいます。(無理やり読みますが)それでも、ちっともその作品のよさは損なわれませんよね。縛られる必要はないと自分では考えています。

こんなやりとり、うれしいです。ブログでつながると話が合いますね!好みが合っているというか、人生の道の先を歩いていらっしゃる方と感じています。

お待ちしておりますので、またぜひお気軽にお立ち寄りくださいませ。ありがとうございました。
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hajime

Author:hajime
ぜひ、高校生や大学生などの青年諸君に注意深く読んでもらいたい。むやみに多読する必要はなく、知識や思想の力があれば悩みに打ち勝つこともできるのだ。僕自身が高校時代から現在に至るまで苦悩と苦悶を繰り返しながら、懸命に人生について、「善く生きる」とはどういうことか、ということを真面目に考え、行ってきた事実をここに記している。その内容はきっと青年に役立つであろうと思わないではいられない。

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