利害関係を経た後の愛 「シェリ」コレット著より


「あっちに行ってよ!あんたなんか大嫌い!あたしのこと愛してくれたことなんかないんだから!あたしがこの世にいなくたってどうってことないんでしょ!あたしのこと馬鹿にしてるんだわ、軽蔑しているんでしょ、下品な男よ、あんたは……あんたは……あの婆さんのことしか考えてないんだわ!あんたの好みって、病的なんじゃない、変質者みたいよ、それに……それに……あたしのこと愛してない!いったいなんで、ねえ、あたしと結婚したのよ……あんたって……あんたって……」

彼女は首筋をつかまれた獣のように頭をゆすっていた。むせびながら息を吸いこもうとしてあおむけにのけぞると、粒のそろった小さな乳色のパールが光って見えた。シェリは呆気にとられて、くねくねとゆれる愛らしい首の乱れた動き、よじられた両手の訴え、そしてとりわけその涙、あふれる涙に目をうばわれていた……。こんなにぽろぽろと流れ落ちる涙を彼は見たことがなかった……。彼のまえで、彼のために泣いたひとなどいただろうか?そんなひとはいやしない。マダム・プルーは?《だってさ》と彼は考えた。《マダム・プルーの涙なんか、気にする値打ちもないぜ……》レアはどうだったかしら?……いや。彼は記憶の奥底をさぐってみたが、思い出す誠実な青い目が潤んだ光をたたえるのは、快楽のためか、茶目っ気か、さもなくばちょっと皮肉っぽい情愛のためだった……。彼のまえで悶えているこの若い女がさめざめと流す涙の量ときたら!こんなにたくさんの涙をどうしろっていうんだ。彼にはわかるはずもなかった。それでも彼は腕を伸ばしたが、エドメは乱暴な仕打ちを恐れてか、あとずさりした。彼はよい匂いのするしなやかで綺麗な手を彼女の頭にのせ、彼自身が身をもってその効力を知ったあの声音、あの言葉を真似ようと努めながら、ふりみだした頭髪を撫でつけてやった。

「ほうら……ほうら……どうしたっていうの……どうしたっていうの……ほうら……」   『シェリ』コレット著より


女性が怒るとき、それは彼女らを愛さなければならない立場にある夫や彼が愛のない言動をしたときである。それを無関心といったりもする。そしてすぐに怒りは悲しみへ変わる。ましてやそれが嫉妬を掻き立てるものであれば、これほどたまらないものはない。けれども彼女らのものの考えは冷静で順序を追う思考回路ではないから、鬱憤を晴らしてしまったら、怒っても意味がないと悟り、行き場のない愛情が悲しみの感情を引き起こす。そしてしまいには残酷なるまでの無関心とつまらないひとという判断を下す。ここにきて互いの関係はもはや修復不能となる……。

しかし、本来愛情深い彼女らは愛想を尽かすというのは余程のことで、たとえ邪険にされても本能的な涙と甘えによって相手をコントロールしてしまう。そうしたものから僕たちが決然と脱するのは困難だ。女性の涙にはかなわない……。

女性から愛されること、それらが僕たち男性が求める最上のもので、一人の女性からも愛されない男などみじめで価値がないと思えてくる。どんなに悲惨な状況にあったとしても、自分を愛してくれる女性がいると思えば極度の悲観には陥らない。ただし僕たちは不完全だ、なぜなら一人でも多くの女性から愛されたいと思うからだ―僕たちは多くの女性を同時に愛せると勘違いしている…その実、愛しているのでもなんでもなく、ただ下心で好意を持っているだけなのだ―女性から愛するということはどういうことなのか教えてもらわなければならないだろう。そうでないと生涯で一度も人を愛したことがないということになってしまう。実際に人を愛せない、妻をも愛せない亭主、夫を僕は何人か見てきたように思う。そういう意味でも一度は女性から愛されなければならないと思う。親からの愛情ではなく、利害関係を経た後での愛を受ける経験は僕たち男性には必要不可欠だと思うのだ。

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hajime

Author:hajime
ぜひ、高校生や大学生などの青年諸君に注意深く読んでもらいたい。むやみに多読する必要はなく、知識や思想の力があれば悩みに打ち勝つこともできるのだ。僕自身が高校時代から現在に至るまで苦悩と苦悶を繰り返しながら、懸命に人生について、「善く生きる」とはどういうことか、ということを真面目に考え、行ってきた事実をここに記している。その内容はきっと青年に役立つであろうと思わないではいられない。

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