姨捨SAの善光寺平を一望できる立地もさることながら、ガラス越しにその景色が広がるレストランに一押しメニューがあるので紹介したい。
サービスエリアの食事はレストランといえどおいしいとはいえないというのが常識であった。それも当然で、出来合いとまではいかないまでも、高速道路上ということもあって、冷凍ものを使わざるをえないであろうし、新鮮な食材を提供するということは物理的に難しく、また消費者のニーズも早く、安くという方向に偏っているため、おいしく、見た目にも鮮やかな、手の込んだ料理というわけにはいかない。ところが、前述したように地元食材を使ったメニューや工夫された一風変わったアイデア料理というようなものが提供されるレストランをサービスエリア内で目にすることが増えた。この姨捨SAにも、そういった食欲をそそられるメニューがあった。

こちらの「信濃の華丼」だ。
まずネーミングから工夫とこだわりが感じられ、コンセプトもお客目線に立っていることが伝わってくるので素晴らしいと思った。
鮮やかな朱色の長野のブランド魚、信州サーモンと上品に盛られた長野市松代産の長いもが使われたどんぶりに、こちらも地元食材を使った野沢菜の天ぷら―こちらは初めてだったが、さくっとした食感に味の染みた野沢菜の程よい弾力が絶妙で塩をすこしつけると一層うまみが増す―、なめこの味噌汁、お漬物という丼膳であった。
なめこもひょっとしたら信州産のものか?味噌は信州味噌?という期待と疑問を抱いかないではいられなかった。
お漬物は定番の野沢菜漬けに小きゅうりのから味噌漬け、焼生姜という善光寺みやげとしても売られていて、SA内のおみやげ店にも販売されていたものの三種でどれも特徴的な味でありながらおいしい味付けであった。
このようにSAでの食事にも地元の食物が多く使われるほど気候、土壌に恵まれた長野県には豊富な食材がある。とりわけ、今回食した信州サーモンには僕は強く興味を引かれた。なぜなら、これは長野県水産試験場が開発した人間の手によってつくられた養殖品種であり、僕たちが食べるのに適した、もっと言えば食べるためにだけつくられたスペシャルフードというわけだからだ。
開発の過程や特性、技術に関しては触れず、ここではその味わいについて少し書きたいと思う。
信州サーモンという名称からサーモンの味を想像してしまうが、サーモンほど肉厚で柔らかとはいかないが、この魚は淡水魚であるから、川魚として食べるとまったく筋っぽくなく、うまみに直結するような弾性を感じられる。川魚特有の臭みもなければ、クセもない、思いのほかあっさりした味であった。ほのかに風味があるのでおいしいという印象を持ちやすいと思う。僕はとても気にいった。
ぜひ、長野県を訪れた際にはご賞味あれ。