「相対性」と「絶対性」 小説「自由への道」 40

「おお、そうか。」と上井は平然としていた。たばこの先に残った灰を灰皿の上でぽんぽんと器用に落とし、短くなったのをふたたび吸い始めた。

「上井は?」

笑いをこらえるとも苦々しいともいえる表情をしながら煙を吹いた後で上井はこう返事をした。

「俺まだ大学二年なんだわ。」

「ふぇ?まだ二年って一体どうして?」と単純な松本は疑問をそのまま口にした。

「浪人して、しかも二年間な。それから留年もした。だから同い年の奴らとは三年も差がある。一緒に講義受ける周りの学生は若いなーって感じるね、さすがに。だからなかなかなじめないし、なんか気まずいからサークルとかできないな―、だってそうだろう、先輩のほとんどが自分より年下なんだぜ?」

「いやー、それはちとキツいな。だけどまだ学生生活半分以上あるぜ。てことは友達も二つや三つ年下の人間ばかりなんだな。それでは人間的成長もあまり得られそうにないじゃないか。二十歳前の学生って浅はかで傲慢で厄介としか思えない。自分もかつてそうだったに違いないが、食えないやつらばっかだ。」と敢えて松本は辛らつに切り捨ててみた。若輩者同士の語り合いではおおよそ痛切なことばが交わされる。

上井は小指の長さほどに短くなったたばこを灰皿に押し付けて、最後にうんと力を込めてそれを吸殻に変化させた。

「まあ、のんびりやるとするよ。二年後には就職率もよくなっているかもしれないし。そういえば、この前大学にどこかの偉いさんらしき人が、後でまあ自動車系の会社の社長だと分かったんだがね、俺とそのとき一緒にいた友達のテーブルに近寄ってきてこう言ったんだ、「君たち、企業は社会だろうか。」って。ははあ、学生を試そうっていうんだなと俺は思って、しかつめらしく、「社会といえば社会ですし、社会でないといえば社会でないといえると思います。その場合の「社会」をどのように定義するかによって答えは変わってくるといえるのではないでしょうか。」と言うと、「なるほどね、君の答えは間違いではない。しかし、私が期待していた答えではないようだよ。学生やその他、物事を思考で捉え、対処しようとする人たちはあらゆる問題について一般論を導き出そうとする悪い癖がある。私は君に一般論を聞いたわけではなく、単に君の考えを聞きだそうとしただけであるのに、君はどちらともいえるという私からすれば見当違いの答えをしたわけだよ、わかるかね。私はわが社の社長を長く務めているから、部下をたくさん持っている。会社を運営していく上で、私は彼らの考えや人間性をよく知っている必要がある。だから、それをあらゆる情報源や方法を使って知ろうとするわけだが、優れた人間、つまりよく仕事のできる能力のある人間というのは私の経験から言うと自分の中に哲学と信条を持っているものなのだ。だから君、ぜひ社会に出たら、大学の中では、すなわち学問的、あるいは非現実的で非生活的な部分ではそうした相対的な考えを持っていてもいいが、絶対的な視点と観点を持つことだ。そうすれば君は有能な人間になれる。企業も社会もそういう人間を欲しているのだよ。」と言って帰っていった。変なおっさんだったが、それから俺の頭の中ではこの相対性と絶対性ということが離れないんだ。」

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hajime

Author:hajime
ぜひ、高校生や大学生などの青年諸君に注意深く読んでもらいたい。むやみに多読する必要はなく、知識や思想の力があれば悩みに打ち勝つこともできるのだ。僕自身が高校時代から現在に至るまで苦悩と苦悶を繰り返しながら、懸命に人生について、「善く生きる」とはどういうことか、ということを真面目に考え、行ってきた事実をここに記している。その内容はきっと青年に役立つであろうと思わないではいられない。

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