『ベートーヴェンの生涯』 ロマン・ロラン著 弱く不幸なる者に与えられる光


僕は元来、人物を愛している。社会における歴史や地理、政治は好きではなかったけれど、そこに君臨した主要な大人物は好きであった。

フランス革命がどうであったか、ということについて僕は詳しく知ろうとは思わない。しかし、ヴィクトル・ユーゴーの『レ・ミゼラブル』からその情景のいくつかは得ることができた。

関ヶ原の戦いがどのような様相であったか、恥ずかしながら僕は知らない。だが、徳川家康の遺訓に表されたる偉大な思想は僕の心を捉える。

僕はそれらの細かな歴史的事実にも目をむけ、識見を鍛えていかなければならないだろう。けれども今は、自分自身の精神を向上させるが第一である。

このように社会についてのみならず、芸術に関してもたとえば絵画の知識、音楽の知識、文学の知識、これらのいわゆる専門知識に僕は疎い。ベートーヴェンの偉大なる事を知ることと、音楽を知ることは必ずしも同意でないと僕は信ずる。

僕が一番最初に彼に惹かれたのは「ピアノソナタ 『悲愴』 第二楽章」であった。単調な聴きやすい一貫したリズム、巧みな転調によって一気に世界観に引き込まれ、希望と輝きへのフィナーレというイメージは誤りなのかもしれないが、止まない雨はない、暗く、湿ったトンネルもやがては抜けられる。そんなメッセージを僕は受け取った。

彼は優しさと情熱を併せ持った、真に強い人物であったと僕は思った。

彼の音楽を好み、彼の言葉を理解するには彼が敢えて言う、「不幸にある者」でなければ不可能なのではなかろうか。

徐々に失いゆく、かつて完全と絶対の内に有していた音楽家として運命付けられた能力という苦悩に生き、やがて音を感知せず、音を紡ぐという創造主にも似たる業をなした。

運命に無力なることを自覚する不幸は誰しもが味わいうることではあるが、その個人差は大きく、彼の言葉と音楽が心に響くほど深刻なる絶望に陥ったものはいくらもいるものではない。

僕はかつて、自分を不幸と思い、絶望に陥った。壁は高く、果てしなかった。だがそれは視界が狭く、人間が小さいから感じるに過ぎない。

人を愛することや人生を実りあるものにすること。世の中に役立とうと情熱と愛を持つこと。それらは不幸の内にあろうとも、絶望に打ちひしがれていようとも成しえぬ事柄ではない。

むしろ、不幸の内にあって事もてる愛と勇気があるということを忘れてはいけないだろう。

「ベートーヴェンの生涯」にはこれらのメッセージが詰まっている。

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hajime

Author:hajime
ぜひ、高校生や大学生などの青年諸君に注意深く読んでもらいたい。むやみに多読する必要はなく、知識や思想の力があれば悩みに打ち勝つこともできるのだ。僕自身が高校時代から現在に至るまで苦悩と苦悶を繰り返しながら、懸命に人生について、「善く生きる」とはどういうことか、ということを真面目に考え、行ってきた事実をここに記している。その内容はきっと青年に役立つであろうと思わないではいられない。

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