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夏のゴルフ練習場、藤井さんの好み(本) 小説「自由への道」 27


正午になると本田は仕事を上がった。雑務を済ませて戻ってきた松本が本田の変わりに受付業務についた。室内はエアコンがよく効いていて、外の作業から戻ってきた彼には極上の快適さであった。

激しく耳に響いていた蝉の鳴き声は窓越しにかすかに聞こえた。肌を焼くような日差しは窓外の緑をきらめかせることに働きを転じた。飛び交う白球、芝に埋もれる小球。森林と境目をつくるように並べられた鉄柱にフェンスが張られ、打球が当るごとに小さな波をつくってはまたおだやかに風になびくのだった。やや傾斜のある地形を利用して、放たれた小さな白球は側溝をつたってたえず回収されていた。一球単価十円のゴルフボールが放物線を描いて宙を飛ぶ。地にめり込むもの、フェンスに囲われた領域外に飛んで森へ消えるもの、首尾よく回収されふたたびどこかの打席でティーに乗せられるもの。その運動の中でゴルフの練習を楽しんでいる人たちの労働の対価が費やされる。人間が物好きにも汗を流しながら回転運動をする。ボールは機械によって規則正しく各打席へと運ばれる。それが一日中繰り返されることでこの商売は成り立っている。不思議なものである。人間は楽しく疲れたい。できる限り派手に時間つぶしをしたい。そんな欲望がどこかにあるのかもしれない。

「松本君、本をよく読むって言ってたわよね。私最近本でも読んでみようかしらなんて思うんだけど、どんなのがいいかわからなくて、そうだ松本君に聞いてみようって思ったのよ。なにかおすすめの本なんかあるかしら?」藤井さんは髪の美しい女性である。肩まであるその髪はまっすぐでつやがあり、茶色く染められていて殊に美しく見えた。その髪を指先にからませながら言った。

「普段はあまり本を読まれないですか?」と松本は積極に出た。

「そうね、特に最近は読まなくなったわ。それでもたまに読んで夢中になるってことがあるのよ。私、読み出すと続きが気になって最後まで読まないと気がすまなくなっちゃうから、あんまり長いのはNG。だから、展開にメリハリがあるのじゃないとダメね。途中で飽きちゃうの。教訓めいていたり、世の中や社会に対して批判的なものだとつい引き込まれちゃうからいいわ。一日で読み終えちゃうか、一冊読み終わるのに数ヶ月かどっちかなのよ。多少長くても夢中になれれば苦にならずに何時間でもかけて読み終えれちゃうし、どんなに短くても入り込めなかったら延々かかっちゃうわ。それでも勧められたものはがんばって読むけれどね。」と藤井さんはほほえんでいる。

「では、短編、中編というところですね―。うーん、何がいいでしょうかね……。」と右斜め上の方を遠くを見るような目で見みながら、松本は考察と比較を脳内で繰り返した。

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hajime

Author:hajime
ぜひ、高校生や大学生などの青年諸君に注意深く読んでもらいたい。むやみに多読する必要はなく、知識や思想の力があれば悩みに打ち勝つこともできるのだ。僕自身が高校時代から現在に至るまで苦悩と苦悶を繰り返しながら、懸命に人生について、「善く生きる」とはどういうことか、ということを真面目に考え、行ってきた事実をここに記している。その内容はきっと青年に役立つであろうと思わないではいられない。

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