小説「自由への道」 21


「たしかに、右ひざに向かってクラブを下ろしてくればスイングプレーンを外れようがないようだ。」ともっともらしい相槌を打った。「サッカーにも言えることだろうね、シュートの精度はトラップしたボールの位置に大きく左右される、つまりボールをシュートの打ちやすい場所に納めることができれば、自ずといいシュートが打てるわけだ。」松本は合点し、こう加えた。

彼がこのような解釈をつけたのは、本田が大のサッカー好きであったからである。「ゴルフは仕事としてやっているから楽しいとかそういう感覚ではない。好きなスポーツはサッカー。」と彼は自ら言った。東北地方出身であったが、埼玉県に本拠地を置く浦和レッズの熱烈なファンであった。その熱狂ぶりは浦和にあるホームスタジアムまで車で一年に何度か試合を見に行くほどであった。ユニフォームはホーム仕様とアウェイ仕様を別々に複数枚もっていたし、チームフラッグも部屋に飾られていた。Jリーグの試合は地上波であまり放送されないため、サッカー専門チャンネルを契約して浦和戦を欠かさずライブで観戦し、何か用で見ることができない場合は、録画してみていた。ちなみに、いいゲームだった場合はライブと録画の二度みることもしばしばあった。

自分の好きなことを仕事にすると辛いということは世間でよく言われることで、料理人は普段家では料理を作らないというし、お笑い芸人もプライベートではシャイでクールという人のほうが圧倒的に多いとテレビで聞かれることである。本田もゴルフ自体にはあまり興味を感じないようであった。ゴルフは地味なイメージのあるスポーツで華やかさに欠け、熱いものもあまりないと考えていた。では彼はどうしてゴルフを始め、プロを目指し、それで食べていこうという気になったのであろうか。それはよくあるように親の、特に父の影響であった。彼の父はツアープロとして一時期活躍した名うてのゴルファーであった。厳しいプロの世界では残念ながら長く現役を続けることはできず、早くに引退して家庭人として生きることとなった。地方で自営業を営み、それは順調であったため、自然、家庭は豊かであった。息子にゴルフを勧め、手ほどきをするとみるみる上達し、熟練の彼の目にも才能の片鱗を認めさせるほどであった。子どもは親に与えられた視界の中で生きることしかできない。彼にとって生活の中心はゴルフとなり、それは生活の術へと様相を変えていった。彼の気質を捉えたこと、それは自己マネジメントとスイング形成の妙であった。それはゴルフの奥深さであり、難しさでもあった。自己マネジメントには哲学が必要で、スイング形成には物理学と先人たちによって培われてきた基本と理想とがあった。彼を見ているといいスコアを出すことよりも理想のスイングを完成させることに注意を向けているように見受けられた。

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hajime

Author:hajime
ぜひ、高校生や大学生などの青年諸君に注意深く読んでもらいたい。むやみに多読する必要はなく、知識や思想の力があれば悩みに打ち勝つこともできるのだ。僕自身が高校時代から現在に至るまで苦悩と苦悶を繰り返しながら、懸命に人生について、「善く生きる」とはどういうことか、ということを真面目に考え、行ってきた事実をここに記している。その内容はきっと青年に役立つであろうと思わないではいられない。

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