小説「自由への道」 17

松本が振り返って天井近くに取り付けられた壁時計に目をやると午前二時半を過ぎていた。山下も先ほどから何度か水に手をやっていたが、のどが渇いているがためではなかった。

「そろそろ行くか、眠たくなってきたし、帰ると結構な時間になる。明日は午前中なにもないから特に問題もないが。」山下が切りをつけ、松本が「おう。」というと二人が立ち上がった。彼は額に見合った小銭を適当に財布から取り出し、山下の手に握らした。どちらも金にケチではなく、細かくもなかった。それが二人の関係をあっさりと気楽なものにしていた。遠慮もなければ、大胆もなく、分を知って互いにふるまっていて、度を超すことがなかった。

松本にとって、また学生にとって信じられないことだが、山下は一時間の自宅までの道のりを三十分短縮するために躊躇せず高速道路を利用した。彼は別に急いでいたわけでもなく、運転が面倒くさかったわけでもなかったのだが、そうした細かい出費に無頓着であったのだ。



山下の乗る軽自動車のバンはウインカーを左に出し、高速道路へ入った。走っているのはほとんどがトラックでときどき異様に速いのが追い越し車線を走り去っていった。太い二連結の後輪が重々しい音を闇夜の中にとどろかせていた。街路灯がうねって先のほうまで道を照らし、ハンドルを握る腕に明暗を交互に映した。

〔須崎はもう若くはない両親と一緒に暮らしていて、一人っ子だ。いい加減、適度な職に就いて近く結婚をして父になるんだという気持ちになったのだろうか。厳しい環境に身をおけばそれだけ力もつき、仕事もできるようになるだろう。だが、多忙で疲労し、家は休息するためだけのところとなれば、家族で楽しくとはいかないかもしれない。歳を重ねるごとに俺たちは自分本位の行動を差し控えなければならなくなる。それが世の道理だ。俺は未だに学生で、実家に一人母を残して、極力アルバイトで補填しているものの、仕送りをしてもらい負担を掛けている。その点松本はどうだ。実家暮らしをしているから仕送りや学費などといった負担はかけていない。家賃が必要ないのは大きい。一体、住むだけに少なくない費用を払わなければならないとはなんということだろう!安全と快適、そしてプライバシーを獲得するために人はあくせくしなければならない。彼とて食費や電気・ガスなどの生活費はかかるに違いないが、それに余りある収入をアルバイトとはいえ確保している。その点あいつには落度がないようだ。俺もせめてもう少し家賃の安いところへ引越すなりしなければいけない気がしてきたぞ。〕

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hajime

Author:hajime
ぜひ、高校生や大学生などの青年諸君に注意深く読んでもらいたい。むやみに多読する必要はなく、知識や思想の力があれば悩みに打ち勝つこともできるのだ。僕自身が高校時代から現在に至るまで苦悩と苦悶を繰り返しながら、懸命に人生について、「善く生きる」とはどういうことか、ということを真面目に考え、行ってきた事実をここに記している。その内容はきっと青年に役立つであろうと思わないではいられない。

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