小説『自由への道』 12


山下は決まって季節のミニパルフェを注文する。作法としてメニューを手に取り、デザートのページを開くのであるが、一瞥をカラー写真に投げるだけである。夏らしく、マンゴー特集でフレッシュジュースやケーキなどがマンゴーをふんだんに使って仕上げられていた。すぐにメニューが松本に渡された。彼は次のページにある数あるドリンクの中からタピオカ入りロイヤルミルクティーをチョイスした。疲れているときは甘いものが摂取したくなるものである。彼は一度、大体のメニューを頭の中でシュミレーションしてその味を確かめてみる。そして気分や味のバランス、相性などから総合的に評価の高いものを選びだすので、余程はじめから目的を持って入店した以外では注文するまでに時間がかかり、優柔不断だと思われていた。実際にはそうしたからくりがあった。もしかすると、こういう人間のことを優柔不断というのかもしれない。

テーブルの脇に置かれたボタンを押すとしばらくして店員が現れる。おもしろい仕組みである。

「ミニマンゴーパルフェ一つとホットコーヒー一つ。」

メニューをテーブルに開いて置き、タピオカ入りロイヤルミルクティーを指差して、「このタピオカ入りのロイヤルミルクティー一つ。」と松本。

「こちらのマンゴーパルフェですが、本日よりメニューが変わりまして、実はまだ輸送が間に合いませんで、今すぐに準備いたしかねるのですが、いかがなさいましょう。あと数十分ほどいただけたらご用意できるのですが。」と歳格好六十手前ほどで目がややくぼんだ女性店員が申し訳なさそうに言った。

「ああ、そうですか。そんなこともあるんですね!じゃあ、待ちますから、用意できたら持ってきてもらえますか?」と気さくに山下は答えた。

「かしこまりました。失礼いたしました。」とその店員は引き下がった。

「髪色黒色だけど、どうかしたのか?」第一印象についての発言によって会話をすすめるというのは常套手段であり、その他、近況や時候も悪くないだろう。

「ああ、来年から大学教授の助手をやることになったんだが、今でもその教授と一緒に研究会や会議に出席させてもらっているから、さすがにあんな不躾な身なりではだめだってことでね。当たり前といえば当たり前だが、俺の自由な学生生活も終りを告げつつあるってところだな。」と山下は笑った。

「そうだよな、もう大学院二年だから就職考えないとな。結局就職っていう道は選ばなかったんだな。」

「俺とお前はサラリーマンにはなれっこないだろうな。わが道を行くっていうか、敷かれたレールに乗りたくないって感じだもんな。」と独り納得する山下。

「助手は給料どうなんだ?どのくらい拘束されるんだ?そういえば、この前卒業研究の調査がまとまらないって言っていたが、あれはいい感じで仕上げれそうか?」進路や現状に興味のある松本は立て続けに問いを投げかけた。

「助手は本当に給料安いみたいだよ。まあ、車はしばらく軽自動車に乗らなくちゃならないだろうな。ある程度自由に研究とかはさせてもらえるだろうけど、本業は助手だから、無理やりスケジュール組まれたりもするだろうから、あまり安穏としていられないだろうな。研究は葬送についてのもので、その中でも特に樹木葬を重点的にやったわけだが、土地や寺、宗派、自治体とかの問題が重なって面倒だから大体のところでまとめてやめてしまった。」彼は平気である。

「あと、最近では学内で勉強会を発起して、後輩たちの育成に微々たるながら取り組んでいる。というのは大学で学ぶことは理論詰めで実質的なものに欠けているからそれを埋め合わせようと、俺たちはいろいろな会社やイベントを訪問して実体験をし、そこから有益な教訓を学ぼうというのさ。企画し、段取りを組み、実行することは簡単ではないが、最近少しずつ形になってきている。参加者も安定しないがまずまず増えつつあるし、やる気のある後輩もちらほらいるからね。やっぱり人を育てるっていうのはおもしろいよ。今のこの会が将来大きくなっていって、対社会的な活動まで成長できたらいいと考えているんだ。俺はそのリーダーとしてこの組織を運営していくつもりなんだ。」

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こんばんは

イマドキの若者?とはちょっと一味違う文体がとてもここちよいですね!

なんで“僕” じゃないのかなぁなどと考えながら,興味深く愉しく拝見しています。
もちろん 「“松本クン”の日記」じゃないのだから小説として,まっすぐうけとめてますけど!

今の時代のわかものの,“無産” がすなわち自由やこころもちの“有産” であることを,(もしくはその逆でも,なにかでも),陳べてみせてくれるのではないかと期待しています

Re: こんばんは


コメントありがとうございます。
読んでいただけていること、大変光栄ですし、何よりの意欲の源です。感謝しています。

できるかぎり客観的にしたいという意志から“僕”を使わずにチャレンジしてみましたが、僕を使った場合ととあまり印象がかわらないところは今後の課題です…

実在のモデルと人間性モデル(形式的な思想)の狭間での融合を試みたいので体験に基づきながらもできる限り違った雰囲気を出したいので工夫をもっとしなければいけません。

現代の若者のこころもちが伝わるのであれば、これほど喜ばしいことはありません、素直にうれしいです。

最後に、自分自身としても文体は流れやリズムよりも格調よいものを求めて精進です。
ぜひ今後ともよろしくお願いいたします。

No title

 こんにちは。この作品,読んでいくうちに,今の若い人のことを昔の私小説みたいな文体や表現で書いている味わいというか,ねらいのようなことがわかってきた気がします…(今ごろ遅い?でも,小説はほとんど知らないもので)…また読みに伺います。

Re: No title

メッセージありがとうございます。読んでいただけることがなにより励みになります。感謝しています。
文字をコミュニケーションツールだけに限定せず、世界の構築要素として、またそこに見出せる芸術性も考えていきたいと思っています。

今後ともよろしくお願いいたします。
プロフィール

hajime

Author:hajime
ぜひ、高校生や大学生などの青年諸君に注意深く読んでもらいたい。むやみに多読する必要はなく、知識や思想の力があれば悩みに打ち勝つこともできるのだ。僕自身が高校時代から現在に至るまで苦悩と苦悶を繰り返しながら、懸命に人生について、「善く生きる」とはどういうことか、ということを真面目に考え、行ってきた事実をここに記している。その内容はきっと青年に役立つであろうと思わないではいられない。

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