小説『自由への道』 8


しかしながら、理想と現実は異なるものである。彼といえども同じ職場と地位に十年もいるので意欲もモチベーションもなくなってしまった。面倒を見てくれたオーナーも時をおかずに体調不良のため早く引退してしまった。彼はもとより巧みにお追従の技を振るうことはできなかったし、指導力や統率力もなかった。簡単に言えば課長どまりの役柄に甘んじていた。だが彼には夢があった。〈大好きなゴルフを好きなだけ自由に、世界中の名門コースでプレーする〉という夢。それを叶えるためにゴルフ練習場の課長では望みないことだった。それはただ金銭的問題だけではない。サラリーマンとして会社に雇われて勤めている以上、自由にゴルフを世界中でやるなんてことは時間的問題においても不可能であった。常識のある大人であれば、それは夢のまた夢といって大きな夢を諦め、忘れてしまう。彼も同じように時々ふとそうした空想を描いては肩を落としていた。ところがある日のこと、彼はビジネスという概念に初めて出会った。働くのではなく稼ぐという転換が彼のなかで起こったがようであった。彼が参加しているセミナーというのが正にこのビジネスについてのもので、それは率直に言えば、グループビジネスというものであった。大まかな概要はグループをつくり、そのグループが企業などと契約を組んで、継続的に対象商品のみを消費し、そのグループの規模の大きさによってバックマージンがもらえるという仕組みだ。企業としては安定的に売り上げを出すことができるし、利用者であるグループの一人一人は目的や需要に合致していればバックマージンがもらえるわけなので、メリットがある。では何ゆえに、ビジネスであるのか。それはグループづくりとその安定的需要の確保をしなければならないからであり、デモンストレイションやミーティングを盛んにやっていき、対象商品についての知識や、グループ間の意志の疎通にも骨を折らなければならないからである。そしてもし、それに成功すれば大きなバックマージンが賞与されるので、彼の描いていた時間的自由と金銭的余裕が手に入るわけであった。彼はそのビジネスモデルについてのセミナーに参加しており、参加するたびに松本にその内容を話しては、彼の興味をひき、あわよくばグループの一員になってもらおうと思っていたのであった。

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hajime

Author:hajime
ぜひ、高校生や大学生などの青年諸君に注意深く読んでもらいたい。むやみに多読する必要はなく、知識や思想の力があれば悩みに打ち勝つこともできるのだ。僕自身が高校時代から現在に至るまで苦悩と苦悶を繰り返しながら、懸命に人生について、「善く生きる」とはどういうことか、ということを真面目に考え、行ってきた事実をここに記している。その内容はきっと青年に役立つであろうと思わないではいられない。

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