小説『自由への道』 7

石田課長は今までにたくさんの職業を経験してきた。というのも、学生時代はプロゴルファー志望で高校卒業後、地元のゴルフ場に研修生として勤務をした。ゴルフに明け暮れる毎日を過ごし、日に日にゴルフの腕は上達した。だが彼は生来、物静かで穏やかな性格であったため、試合やプロテストとなるとさっぱり実力を発揮できなかった。二十五歳を過ぎたある日、彼はゴルフで食べていくことを諦めた。勝負師に必要な厳しさと何より才能が乏しかった。努力をするのではなく、好きなゴルフを楽しむという領域から出ていなかった。要するに、プロになる逸材ではなかった。彼に残された道は意外にも狭いものであった。まずゴルフからは遠ざかりたかった。というよりも、夢を完全に断ち切るためにゴルフと接点を持ちたくなかった。そして高卒でしかも、二十五歳を過ぎるまで研修生として過ごしたため、ゴルフの技術のほかに取り立てて特徴も仕事に役立つスキルも備わっていなかった。結局、まず働くことが第一だったのでたまたま手に取ったビラに広告された鉄筋工の仕事につくことにしたのだった。募集要項としては、健康、頑丈な肉体ただ一つである。彼はもちろん体力には自信があったのだが、その性格から環境になじめるかが不安であった。

 面接を受けに指定された場所にやってくると、彼はその部屋に入るや否やニッカポッカを渡されて、着替えをすぐに済ませ、仕事につくよう命じられた。二年ほど一生懸命に鉄筋をかつぎ、足場を組み、鉄筋を組んだ。苛酷な夏には鉄筋は容赦なく彼の肩を焼いた。冬にはかじかんだ手での作業が辛く、霜はただでさえ多い危険を一層多くした。出世する若年の先輩にあごで使われ、そうした仕事を彼はそつなくこなすことができた。だが、新しい仕事を覚えることはなかなか難しかった。気力、体力ともに旺盛な時期を過ぎると、その仕事がどうしようもなく辛くなってしまって、彼はとうとう投げ出してしまった。そうした土木関係の雑用に順ずる仕事はその厳しさの割に薄給であったため、次の仕事は派遣や夜間のものなど不規則なものだった。在庫点検、警備員、交通整理、イベントスタッフなど、それらはアルバイトと大差ないもので、彼はどこにいっても年長者であり、肩身の狭さをいつも感じていた。

その日暮らしといってもいいくらいの不安定で、先行きの見えない毎日を過ごしていたある日、研修生時代の同期から接待ゴルフの代理を頼まれた。行ってみると、彼の物静かだが、ステディな彼のゴルフはその接待を受けた人物の目を引いた。彼はゴルフ場を経営するオーナーだったのだ。彼は十八ホールを終えると、支度を済ませてみだしなみを整えている石田のところへとやってきて、「私のゴルフ場で働いたらどうだい?ゴルフの好きな君にとっては悪くない職場だと思うのだがね。」彼は分厚い顔の輪郭に掘り込まれたしわを一段深くしてやさしい表情をしていた。「君の友人から、君が研修生であったことを聞いた。実は彼は私のレッスンをしてくれていて、今度練習場を新設するという話をすると、君の事を彼が話すのだよ、僕の研修生仲間でいいやつがいたんですが、すっかりゴルフと縁を切ってしまいまして、楽しくもない、自分に合わない仕事をしているんです。今でもきっとゴルフが好きなはずで、きっとゴルフに関わりたいと思っていると思うんです。彼がそこで働くなんてことは難しいでしょうかね。いずれにしても一度彼と接待という名目で接待をしてもらえないでしょうか。それで判断してみてください。と。」そこで今日君とラウンドをしてぜひと思った次第なんだ。石田は深く頭を下げて言った。「ありがとうございます。よろしくお願いしたいです。」彼は迷わずに即答した。それもオーナーの気に入った。彼は仲間のありがたさを痛感し、心は感動に溢れた。派遣も短期就業も辞め、再びゴルフと関わりのある生活に戻ることにした。それからずっと彼はその練習場を任されている。

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hajime

Author:hajime
ぜひ、高校生や大学生などの青年諸君に注意深く読んでもらいたい。むやみに多読する必要はなく、知識や思想の力があれば悩みに打ち勝つこともできるのだ。僕自身が高校時代から現在に至るまで苦悩と苦悶を繰り返しながら、懸命に人生について、「善く生きる」とはどういうことか、ということを真面目に考え、行ってきた事実をここに記している。その内容はきっと青年に役立つであろうと思わないではいられない。

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