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人のはかなさ、人の悲しさ


『―私はあたりを見まわし、部屋をながめた。

周囲にはロッテの衣裳がある。

アルベルトの書類がある。

それからこのインキ壺まで、いまはすっかりなじみになった家具がある。

それを見まもって、思いに耽った。

「どうだ、この家にとっておまえがなんであるか、分るか!

結局のところはこうだろう。

この家の人々はおまえを敬愛している。

おまえという者がいることをよろこんでくれる。

そして、おまえも、かれらがいなくては生きてゆけないような気がしている。

とはいうものの、―もしおまえが行ってしまったら?

このまどいから脱けてしまったら?

そのあとは?

おまえを失うことによってかれらの運命の中にできた空隙を、あのひとたちはいつまで感じているだろう!

どのくらいのあいだ?

―ああ、人間のこのはかなさよ!

人間が自己の存在を真に確認し、自己の現存をほんとうに印象づけることができる唯一の場所は、自分が愛するひとびとの追憶、その魂の中であるが、ここにおいてさえ、人間は跡を絶って消えうせなくてはならない。

しかも、またたくまのうちに!』   『若きウェルテルの悩み』より


かつてその人が暮らした家もすでに跡形もなくなった。

その声もちょっとだみ声だったが不快を感じるものでなく、威勢を含んだものだったという形容をしうるほどに薄れて響くくらいになってしまった。

当時は別れという、厳然たる永遠性に涙したものだったが、果たして日常は大きな影響を受けることなく、様変わりもすることなく流れていった。

その埋め合わせを担ってくれる家族の存在に、平生とは異なるありがたさを感じたのも、このときが初めてだった。

僕にとって大きな存在であったその人が僕の心に占めていたその容積を家族や友だち、恋人に分担してもらってもどこか足らない、喪失感。

けれども、その痛切感は時追うごとにほぐれていった。

そしていま、以前と変らぬ暮らしを続けているとは、人は寂しく、悲しいものだ。

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hajime

Author:hajime
ぜひ、高校生や大学生などの青年諸君に注意深く読んでもらいたい。むやみに多読する必要はなく、知識や思想の力があれば悩みに打ち勝つこともできるのだ。僕自身が高校時代から現在に至るまで苦悩と苦悶を繰り返しながら、懸命に人生について、「善く生きる」とはどういうことか、ということを真面目に考え、行ってきた事実をここに記している。その内容はきっと青年に役立つであろうと思わないではいられない。

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