文明社会という大きな環の一点と接する内接円のごとき社会の中で生きる


大むかしから泥沼にたとえられた借金のことを、ラテン人は「他人の真鍮」と呼んだが、これは彼らの硬貨のあるものが真鍮でつくられていたからである。

いまでもひとは、この他人の真鍮にすがって生き、死に、葬られている。

明日は借金を返す、かならず返す、と言いながら、今日、返済できないまま、ぽっくり死んでしまう。

州法にでも触れないかぎり、ありとあらゆる手段を使ってひとに取り入り、顧客を得ようとする。

嘘をつき、お世辞を使い、投票し、身を堅くしてちっぽけな慇懃さの殻に閉じこもるかと思えば、大風呂敷をひろげて霞のように薄っぺらな度量をひけらかしてみせる。

それもこれも、隣人を口説いて靴、帽子、上着、馬車などをつくらせてもらったり、雑貨品の仕入れをやらせてもらったりするためなのだ。

あげくの果ては、からだをこわすことになる。

そこで、病気にそなえて小金をためこもうとし、古箪笥のなかとか、塗り壁のうしろの靴下のなかに金を隠したり、でなければもっと安全だからというので、レンガづくりの銀行に預けたりする。

場所や金額の多寡は問うところでない。   ソロー著『森の生活』より


ここでいう「他人の真鍮」を否定するとしたら、僕たちはまさに「森の生活」を余儀なくされるであろうし、現にソローは「森の生活」を送った。

「他人の真鍮」にすがって生きることはつねに抑圧を背負うことである。

どうして僕たちは「他人の真鍮」にすがって生きなければならないのだろう?

それは単純に食べなければならないからである。

「働かざるもの食うべからず」とは先人が残した金言であるが、僕たちは食うために働かなければならないのだ。

ではもし、自力で食うことができたとしたら?(これこそつまり、「森の生活」である)

自給自足の生活はときどき話題となり、テレビや雑誌でも取り上げられ、一般にスローライフと言われたりもしているようだが、それが可能であるならば?

じゃあ食べ物を確保でき、食料を育て、食べ、眠り、起きて、食料を育て・・・の暮らしをしていくことは自分の理想の生き方であろうか。

僕は断じて否。と答えるであろう。

ではほかになにを欲するのか?

その食料にうまさを求めるだろうか?

もし、うまさを求めるのであれば、一緒に食卓につく仲間が必要となる。

ひとりで食べるごはんよりも気の知れた人と食べるごはんのほうがうまいに決まっているからだ。

また、人につくってもらうごはんも格別においしい。

つまりいいたいのは、うまさを求めると結果、自己完結型の自給自足の生活と矛盾するということだ。

こうした考えを元に、生活形態を考えてみると、自給自足ができるような環境を持ちながら、血縁的な意味ではない、絆によってむすばれたファミリーというような最小社会をつくることが理想型のように思われる。(ちなみに現在の最小社会は家族である)

これは理想のなかの理想といえるような気がする。

いい忘れていたが、「森の生活」でも人との交流があったが、僕には共に暮らすというようなもっと親密な関係の上に成り立つ暮らしに勝る幸福はないように思える。

だからある種の孤独感を否めない「森の生活」よりもこうした「ファミリー的生活」を僕は理想としたい。

理想のなかの理想といったのは、僕はそれほどできた人間でもなく、不幸にも手中と眼前にある世界だけでは満足ができないのだ。

僕の生きるという概念の根源をなす「旅に生きたい」という強い思いをどうしても消し去ることができない。

しかも松尾芭蕉のごとき自力―徒歩ではなく、電車などの文明の力を感じながら、それを利用しての「旅に生きたい」のだ。

こうした文明の力に頼ることこそ「他人の真鍮」にすがって生きるということである。

では、僕はどうしたらいいのだろうか?

僕はぼんやりとこんなような考えを抱いている。

この世界では文明の上に成り立っている、一般的にいわれる社会、経済というものが大きな環状をなしていて、僕はそこに寄生するように、その環の一点と接する内接円のごとき社会の中で生きるのだ。

つねに社会とは接していながら、都合よくその仕組みや構造を利用しながら、自分の環の形状は崩すことなく回転していく。

それの実現こそが僕の理想であり目標である。



コメントの投稿

非公開コメント

プロフィール

hajime

Author:hajime
ぜひ、高校生や大学生などの青年諸君に注意深く読んでもらいたい。むやみに多読する必要はなく、知識や思想の力があれば悩みに打ち勝つこともできるのだ。僕自身が高校時代から現在に至るまで苦悩と苦悶を繰り返しながら、懸命に人生について、「善く生きる」とはどういうことか、ということを真面目に考え、行ってきた事実をここに記している。その内容はきっと青年に役立つであろうと思わないではいられない。

無料メールマガジン
メルマガ購読・解除
 
メールフォーム

名前:
メール:
件名:
本文:

twitter
月別アーカイブ
最新トラックバック
最新記事
最新コメント
リンク
カテゴリ
検索フォーム
RSSリンクの表示
QRコード
QR
ブロとも申請フォーム

この人とブロともになる