ただ住む家一つと、その周りのいくらかの土地に生きるのみである 『若きウェルテルの悩み』、『平家物語』


『子供は意欲しながらその理由をしらない、ということについては、博学な学校の先生も過程の教師も見解が一致している。

しかし、成人といえども、じつは子供とおなじように、この地上によろめきながら、いずくより来りいずくに行くかをも知らず、真の目的にしたがって行為することもなく、やはりビスケットや菓子や白樺の笞によって操縦されているものなのだ。

このことを誰も信じようとはしない。

これほどにも明々白々の事実なのだがね。

こういえば君がなんと答えるかは分っている。

私の方からいってしまおう。

その日その日を子供とおなじように暮して、人形を引きずりまわして脱がせたり着せたりし、ママが砂糖パンをしまっておいた抽斗のまわりを息をころして忍びあるき、とうとうねらっていたものをうまくせしめて頬ばって、それから「もっと!」と叫ぶ、こうした人間は一番幸福なのだ。

また、自分の愚劣な仕事や、ときには自分の欲情にまでも堂々たる名称をくっつけて、これぞ人類の福祉繁栄のための大事業だと押売りする連中も、たしかに幸福だ。

こういうことができる人は幸いなるかな!

―だが、謙抑にも、こうしたことは結局どういうことであるかを見抜いている人もある。

またさらに、心足ろうた市民ならばわが家の庭をかざってそれを一つの楽園に作りなすことができるし、不幸な身の上の人といえどもその重荷にあえぎながらも倦まずに道をつづけてゆくものだし、なによりも万人はひとしく太陽の光を一分でも長く見ていたいとねがうものだ、ということを承知している人もいる。

こういう人々は、しずかに黙して、自分の世界を心の内面からつくりだす。

かくて、この人は人間であるが故に幸福である。

そして、いかに大きな制約をうけながらも、つねに自由という甘美な感情を、いつでものぞむときにこの囚屋(ひとや)を出てゆくことができるという気持を、おのが心の底にたたえている』   ゲーテ著『若きウェルテルの悩み』より


僕は新興住宅地に住んでいるから、辺りには一軒屋が立ち並び、やや幅の狭い舗装路が縦横に走っている。

どれ一つとして似通った家はなく、たって間もないからどの家も綺麗である。

しかし、それぞれの家は独立してしまっていて、場所だけは一ヶ所に集まっているが、そこに住む人たちはてんでばらばら、ほとんど交流がないのだ。

家は隣同士でも挨拶を交わさなかったり、ご近所付き合いというのがあまり見られない。

特に昼間はただ綺麗な町並みが残るだけで、人の気配がほとんどしない。

こんなにも綺麗で大きな家を建てて、気持のいい日中にその家で過ごさないとはどのような了見なんだろうかと思う。

住まないための家を買い、その家のために働き、外見よく立派な家を建てて、周りの人たちと接することもあまりないとしたらみんなは何のために家を買い、住宅地に住み、仕事をしているのだろう。

彼らこそまさに、子供と違わない大人たちではないだろうか。

お金というビスケット、虚栄というお菓子、外聞、法などの白樺の笞によって操縦され、支配されてしまっているのだ。

本質と装飾の区別がつかない、むしろ装飾であるにもかかわらず、本質と取り違えている人たちのなんと多いことだろう。

車を幾台も乗り換えてとどまることを知らない大人を僕は知っている。

車の本質は走ることであることはもちろんのことであるが、その外見が社会的地位、持主のセンスの代弁者となっていることも周知の事実である。

しかし、新しさや次々に乗り換えることによって美化されるものではないと思う。

むしろこだわりがなく、飽きっぽい、落ち着きのないという印象を与えてしまっていないだろうか。

他人を傷つけ、踏みにじり、自己反省もなく声高々に成功!と胸を張る人のなんと多いことだろう。

『祇園精舎の鐘の声 諸行無常の響あり

沙羅双樹の花の色 盛者必衰の理をあらはす

驕れる者久しからず ただ春の夜の夢の如し

猛き人もついには滅びぬ ひとへに風の前の塵に同じ

(ぎおんしょうじゃのかねのこえ しょぎょうむじょうのひびきあり

さらそうじゅのはなのいろ じょうしゃひっすいのことわりをあらわす

おごれるものひさしからず ただはるのよのゆめのごとし

たけきひともついにはほろびぬ ひとえにかぜのまえのちりにおなじ)』   『平家物語』より


この言葉をもう一度噛みしめながら、明日への一歩を踏み出せば景色も世界も変るだろう。

僕たちはこの広い世界に生きることはできなくて、ただ住む家一つと、その周りのいくらかの土地に生きるのみである。

であるならば、その自分の住む世界を住みよく整える工夫をするべきではなかろうか。

それを見る目と感じる心を、幸せの萌芽を育てることに人生の喜びがある。

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hajime

Author:hajime
ぜひ、高校生や大学生などの青年諸君に注意深く読んでもらいたい。むやみに多読する必要はなく、知識や思想の力があれば悩みに打ち勝つこともできるのだ。僕自身が高校時代から現在に至るまで苦悩と苦悶を繰り返しながら、懸命に人生について、「善く生きる」とはどういうことか、ということを真面目に考え、行ってきた事実をここに記している。その内容はきっと青年に役立つであろうと思わないではいられない。

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