『最も偉大な技術とは、自分を限定し、他から隔離するもの』

『洞察と活動とは、しっかり区別されなければならない。

芸術と名のつくものは、すべて実際にそれをやりだすとなると、実に困難なものともいえるし、偉大なものともいえるのであって、大家の域に達するには、おのれの一生を賭けなければならないということをよくよく考えるべきである。

ゲーテにしても、つとめて多面的な洞察を得ようと努めたが、活動面では、ただ一つのことに自分を限定した。

唯一の技術だけに打ちこみ、しかも大家にふさわしくなるまでに打ちこんできた。

すなわち、ドイツ語で書くという技術である。

彼が表現した素材が、多面的な性質を持っていたということはまた別の問題である。

同じように、修行も、活動とはしっかり区別されなければならない。

詩人が、外界の対象をつかむために、自分の目をあらゆる方法をつかって訓練しておくということも、修行の一つにかぞえていい。

そしてゲーテが造形美術をじっさいにやろうとしたことを間違った傾向とよんだのは、それを自分の活動にしようとした限りにおいてのことで、詩人としての修行に値するかぎりは、まったく当を得たものであった。

「私の詩に具象性のあるのは、やはり、あの深い注意力と目の訓練を大いにやったおかげなのだ。

そこから得た知識も、同じように高く評価しなければいけない。

しかし、修行の限界をあまり広げすぎないように注意すべきだね。

だがこれに反して、自分の専門に欠くことのできない知識に関しては、せまく制限したり、一面的な見方におちいることをつとめて警戒しなければならない。

劇場のためにものを書こうとする詩人は、舞台の知識を持っているのが当然である。

自分に駆使できる道具を良く考えて、いつでも、何ができるか、何ができないかを知っていなければならないのだから。

結局、最も偉大な技術とは、自分を限定し、他から隔離するものをいうのだ」』


『人間は、ただ一つのことだけに打ち込むべきだ』     『ゲーテとの対話』より


この話を聞いたエッカーマンは自然、このような疑問が生まれてくることに気づく。

「なぜ、ゲーテ自身は、きわめて多方面のことに生涯を費やしたのだろうか?」

というのは、ゲーテはドイツを代表する文豪であるのはもちろんのこと、宰相を務め、「色彩論」という論文を発表するほどの自然科学者でもあったからだ。

そして、エッカーマン自身このような分析をする。

ゲーテが世に出たとき、2つの大きな遺産―誤謬と不完全を受け継いだため、どれを取り除かなければならなかった、それが時代の要請でもあったのだと。

才能に恵まれ、知力にも優れていた彼にはそれが可能であった。

それゆえに、一つのことに限定することが難しかった。

彼は真理への愛と、人類にとっての害悪となる遺産を払拭するためにその仕事に取り組んだ。

エッカーマンはこのように結んでいる。

「もし、『ヴィルヘルム・マイスター』のような作品が、国民のあいだにすでにあらわれていたら、ゲーテは小説を書いたかどうかも、大いに疑問で、その場合、ひたすら戯曲だけに没頭しなかったかどうかも、大変疑問である。

彼がただ一つの方面にだけ全力を傾けたような場合、どれだけのものを創造し、どれだけの影響を及ぼしたかは、まったく見きわめがつきがたい。

しかし、たしかな点は、聡明な人間なら、全体を見渡せばすぐに、ゲーテがやむにやまれず神の御心にかなおうとして努めてきたすべてのことを作り出さないほうがよかったなどとはだれも夢にも思わないだろう、ということである」

才能、優れた知力、精神を持っていさえすればどの方面でも、その時代の要請にしたがって人類のために仕事をすることができるのであろう。


世間のほとんどのひとは、「ただ一つのことにだけ打ち込むのではなく、色々な経験を経なければ成長できないから、一つごとにかかずらっているのはやめなさい」と教えをたれてくる。

これは完全に意味を取り違えているし、誤謬だ。

一つのことだけに打ち込んでいるからこそ、人生の役に立つような経験を得ることもでき、関わる人もそうした経験豊かな上質の人たちであろうから、色々なことを学べるのだ。

情熱を燃やすこと、熱心に取り組むこと、まさに『自分を限定し、他から隔離すること』が最高の技術であり、そのためにつとめなければならない。

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hajime

Author:hajime
ぜひ、高校生や大学生などの青年諸君に注意深く読んでもらいたい。むやみに多読する必要はなく、知識や思想の力があれば悩みに打ち勝つこともできるのだ。僕自身が高校時代から現在に至るまで苦悩と苦悶を繰り返しながら、懸命に人生について、「善く生きる」とはどういうことか、ということを真面目に考え、行ってきた事実をここに記している。その内容はきっと青年に役立つであろうと思わないではいられない。

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