人は生きる限り、周りの人を傷つける

『今あっしがふさぎこんでるわけは、ついさっき向こうの土手の上でドシンとかバタンとかいう音が聞こえたためなんで、それで思い出したのが、かわいいリザベスをひでえ目にあわした時のことですだ。

そのころ娘は四つになるやならずだったが、ショーコー熱にかかって、えらい苦しみをしただ。

それでもやっと直って、ある日ぶらぶらしていたんで、あっしが、「ドアをしめろ」って言うと、ドアをしめもしねえで、にこにこ笑ってあっしのほうを見ながら、ただつっ立っているだ。

それであっしはカッときて、ばか声をはりあげてもう一度、「聞こえねえだか?――ドアをしめろ!」って言うと、娘はやっぱりそこに立ったまんま、にこにこ笑ってばかりいるだ。

おらは頭へ来ちまって、「よし、分からなけりゃ分かるようにしてやる!」とどなった。

そう言ってあっしが娘の横っ面をピシャリとぶんなぐると、娘はそこにへたばっちまった。

それからあっしは別の部屋へ入って、十分ばかしたってからまた戻ってみると、ドアはまだあいたまんまで、娘はその入口につっ立って、下を向いてメソメソして、涙をポロポロ流していただ。

あっしはまたカッときて、娘のほうへ向かっていっただが、ちょうどそのとき――そのドアは内側に開く作りになっていて――ちょうどそのとき風が吹いて、娘の後ろでドアがバターンとしまっただ――ところがどうだ、娘はビクとも動かねえ!

あっしは、からだじゅうの息がいっぺんに抜けちまったみてえな、そのときの気持ちといったらまったく――まったく――なんて言っていいだか分からねえ気持ちだった。

あっしは、ぶるぶる震えながら、こっそり部屋を出て、音がしねえように近よって、ドアをそうっとゆっくりあけて、娘の後ろから静かにそうっと首をつっこむと、いきなり、できるだけ大声をはりあげて、ワーッ!てどなっただ。

娘はビクとも動かねえ!ハックよ、あっしは大声を上げると娘を両腕にギュッと抱きしめて、「おお、かわいそうに!神さま、あわれなジムをお許し下せえまし、ジムは一生われとわが身を許すことはできねえ」と言っただ。

ハックよ、娘はまるっきり口も耳もきかねえ、ねっからつんぼでおしになっていただ――その娘をあっしはそんなひでえ目にあわせただよ!』       マーク・トウェイン著『ハックルベリー・フィンの冒険』より


こうして僕たちはほんとに日常のちょっとしたことから人を傷つけてしまう。

僕たちは弱く、そして小さい。

相手の身になることどころか、相手の気持ちを考えることすらなかなかできない。

生きている限り、周りの人たち、自分を愛し、仲良くしてくれる人たちを傷つけてしまうだろう。

だから今までたくさんの人たちを傷つけてきただろうし、これからもたくさんの人を傷つけてしまうだろう。

そのことに気づいたとき、ジムのように自分を恥じ、そして責め、悔やむだろう。

傷つけた言葉も、傷も消えることはない。

けれど、その気づいたことこそが、そのことの償いとなるのだ。

コメントの投稿

非公開コメント

プロフィール

hajime

Author:hajime
ぜひ、高校生や大学生などの青年諸君に注意深く読んでもらいたい。むやみに多読する必要はなく、知識や思想の力があれば悩みに打ち勝つこともできるのだ。僕自身が高校時代から現在に至るまで苦悩と苦悶を繰り返しながら、懸命に人生について、「善く生きる」とはどういうことか、ということを真面目に考え、行ってきた事実をここに記している。その内容はきっと青年に役立つであろうと思わないではいられない。

無料メールマガジン
メルマガ購読・解除
 
メールフォーム

名前:
メール:
件名:
本文:

twitter
月別アーカイブ
最新トラックバック
最新記事
最新コメント
リンク
カテゴリ
検索フォーム
RSSリンクの表示
QRコード
QR
ブロとも申請フォーム

この人とブロともになる