『魔の山』について

この11月はさまざまに変化に富んだ1ヶ月であった。

それを象徴するように読書が進捗しなかった。

というのは、トーマスマン著『魔の山』を読み終えるのに1ヵ月半くらいかかってしまったのだ。

この『魔の山』は1,000ページを超える大作で、1つの記事にまとめることは難しいが、それでもそれに関するなにかしらを書いてみたいと思う。

『魔の山』には時間、肉体、精神、恋愛、政治、死、病気など人生のあらゆるエッセンスに対する深い考察、鋭い批判が含まれている。

しかしこういった見方はこの小説を細切れにして、煮詰め、抽出するといったもので本質ではないように思う。

この物語の特徴の1つは主人公が型にはまった特徴をもっていないということだ。

ふつう、こうした23歳くらいの若い主人公が登場する場合、芸術気質であったり、反社会的な思想(社会から離れた理想主義のような思想)をもっているのだが、このハンス・カストルプはそういった特徴的な性格の持ち主ではない。

だからといって、愚直というはけではなく、どんな思想であっても積極的に取り入れよう、理解しようと努める賢明な若者である。

そしてこの主人公が特徴をもっていない変りに、その周りの人物たちは主義や概念の権化であり、とてもわかりやすい構成となっている。

人文主義のセテムブリーニ、その根底にある個人主義は民族的な個人主義と全世界的な個人主義の矛盾を包含し、そこには最終的に戦争に向かうヨーロッパの縮図とでもいうような思想体系を示していると思える。

神秘主義のナフタ、肉体を持った人間としての世界ではなく、肉体を二次的なもの、精神のための世界そのためにはテロをも辞さないという姿勢。

この2人の論戦はこの物語のなかの一つのテーマを担っているのだが、ナフタの言葉や思想はあまり感銘を受けなかったし、脳内に入ってこなかった。

この宗教や会派の力、人間の卑小さと神を持ち出し、神へ帰依させる考えは人類が存在する以上考えられる思想は肉体をないがしろにする、凄惨な方向へと行きかねない。

ペーペルコンはこの対立する2人を空論を論じ合う者というくくりを明確にし、それの対極におかれる存在。

彼は社会や、未来、人類といった宗教的かつ学問的な思考は持たない。

そのため力というものを人びとに感じさせる。

宗教や学問というものはある意味、武装であって、肉体に重きを置いていない。

そしてこの神に与えられた世界を享受するすばらしさを体現する。

彼はたしかに悩みがない、苦悶もないだろう。そして周囲の人を無意識に支配する。

また言葉遣いも切れぎれで頭脳の明晰さは感じられない。

にもかかわらず、セテムブリーニとナフタは圧倒されてしまう。

そのペーペルコンと一緒に戻ってきたショーシャ夫人は病気で、かつ肉体としての存在である。

ここでかかれる彼女の中身は空っぽである。

病気で、不品行でやせている・・・。

しかしハンスは恋をする。

魅力とは優れているものと同等ではない。魅力とは捉え方である。直接的な美しさとは違ったものである場合も多い。

いとこのヨーアヒム・ツィームセンは市民の代表である。

彼はまじめで、従軍することしか頭にない単純な好人物であるが、そういった人物はえてして情熱に欠けるものである。

そのいとこの従軍の夢は一瞬かなえられるがそれが命取りとなり、結局戦争に出動する運命だったのは、造船業に従事することが決まっていたハンスであった。

この物語は悲劇である。

ほとんどの人物が死に、消えていく。

その死の根拠を読み解くのはこの物語の楽しみ方、深く読む1つの方法だと思う。

ヨーアヒムは運命的で、ハンスは戦争で死ぬだろう。

セテムブリーニは死を意識しながらも宿命を果そうとし、そして死ぬだろう。

ナフタは神秘主義、教会主義と人文主義、人類による世界の統制という思想の対立の意味することによる自殺、テロ行為による死。

ペーペルコンはその肉体賛美がいずれは崩壊し、消滅することへの絶望と本当の意味でのその世界の賜物の享受のための死である。

もはやショーシャ夫人の存在価値はなく、サナトリウムから静かに去っていく。

みなが大きな意味での運命によって死んでいく。

そして最後にこういった言葉で締めくくられる。

『君が味わった肉体と精神の冒険は、君の単純さを高め、君が肉体においてはおそらくこれほど生き永らえるべきではなかったろうに、君をなお精神の世界において生き延びさせてくれたのだ。君は「鬼ごっこ」によって、死と肉体の放縦との中から、予感に充ちて愛の夢が生まれてくる瞬間を経験した。この世界を覆う死の饗宴の中から、雨の夜空を焦がしているあの恐ろしい熱病のような業火の中から、そういうものの中からも、いつかは愛が生れでてくるであろうか?」

常に逆境は革新的なもの新しきものすばらしいものを生み出す。

しかし戦争という名の逆境はすばらしきものを生み出すのだろうか?いや生み出しはしないだろう・・・

この物語こそ人文的かつ平和的である。

コメントの投稿

非公開コメント

プロフィール

hajime

Author:hajime
ぜひ、高校生や大学生などの青年諸君に注意深く読んでもらいたい。むやみに多読する必要はなく、知識や思想の力があれば悩みに打ち勝つこともできるのだ。僕自身が高校時代から現在に至るまで苦悩と苦悶を繰り返しながら、懸命に人生について、「善く生きる」とはどういうことか、ということを真面目に考え、行ってきた事実をここに記している。その内容はきっと青年に役立つであろうと思わないではいられない。

無料メールマガジン
メルマガ購読・解除
 
メールフォーム

名前:
メール:
件名:
本文:

twitter
月別アーカイブ
最新トラックバック
最新記事
最新コメント
リンク
カテゴリ
検索フォーム
RSSリンクの表示
QRコード
QR
ブロとも申請フォーム

この人とブロともになる